地方から始まる脱炭素
国や地方のロードマップは?

Why and What is Decarbonization?どうして今、脱炭素?

脱炭素についてのこのコラムも今回がひとまずの最終回となりました。今日は地方におけるCO2排出量低減の取り組みについて考えてみたいと思います。

都会と田舎、どっちがエネルギーを使っている?

みなさんは、地方と都市部ではどちらがCO2(二酸化炭素)を多く出していると思いますか?パッとイメージされるのは都市部ではないでしょうか。

都市には人口が集中しており、また企業も集積しているため、エネルギー消費量が多く、CO2の排出量も大きくなります。また山野が少ないため、CO2の吸収量はそれほど期待できません。地方であれば自然のめぐみや広い敷地を活かして太陽光、風力、水力発電やバイオマス、地熱発電などの再生可能エネルギーによる発電を行う事業者も多くいますが、都市部ではなかなか難しいでしょう。

下の表を見ていただくとおわかりの通り、東京、大阪、愛知が日本の電力消費量ベスト3を占めており、大都市でやはりエネルギーを大きく使っていることがわかります。内訳を見ると、愛知では産業部門での消費が多く、自動車工場での消費量が大きいようです。

都道府県別電力消費量ランキング(単位:100万kWh)

1東京都92,967
2大阪府60,077
3愛知県58,289
4神奈川県51,534
5千葉県41,446

出典:資源エネルギー庁「都道府県別エネルギー消費統計」

1人あたり電力消費量では、地方は不利に

反対に地方では、人口が少ないためにエネルギーの総消費量が少なくなります。しかし1人あたりの電力消費量で見てみると、そうはなりません。一人あたりの電力エネルギー消費量が特に多いのは、山口県、岡山県、大分県。むしろ東京都、埼玉県などは少ないのです。

なぜ地方では1人あたりのエネルギー消費が大きくなるのでしょう? その理由の1つはモビリティ(移動手段)です。人口が分散して点在している地域では、モビリティから出るCO2(二酸化炭素)量はどうしても多くなります。人口密度の低い地方では電車や地下鉄といった公共の交通機関は採算が取れないため敷設が難しく、広域で暮らすためには1家に1台、場合によっては1人に1台と自動車が必要となるため、1人あたりの移動にかかるCO2排出量は都市部よりも多くなります。

また冷暖房にかかるエネルギーも、集合住宅(マンション、アパート)よりも戸建ての多い地域ではやはり1人あたりの消費量が都市部より多くなります。都市部に多いマンションは戸建てよりも保温効率が高くなります。また都市ではボンベ充填式のプロパンガスではなく地中配管による都市ガスが使えるためロスも少なく、エネルギー観点では有利なのです。

このように、地方の各県それぞれの総エネルギー消費量は、関東・中京・関西などの都市圏に比べて少ないのものの、1人あたりの消費量においては改善の余地がまだあるといえるでしょう。

ゼロカーボンシティを目指して

ご存知のように、日本政府は2050年にカーボンニュートラルの実現を目指しています。難しいミッションですが、CO2の「出す量/吸収する量」のつり合いが取れるようにして、実質的な排出量ゼロ(ゼロ・エミッション)を実現するというものです。

その目標を達成するために、地方自治体も含めた「国・地方脱炭素実現会議」があり、国の呼びかけのもとでゼロカーボンシティ宣言を行う自治体が増えています。

ゼロカーボンシティ、つまり2050年にCO2の実質排出量ゼロに取り組むことを表明した地方公共団体は、310自治体(35都道府県を含む)にも上り、それらの擁する人口を合計すると1億人を超えます(2021年03月時点)。

実現のための具体的な方策としては以下のようなものが挙げられます。

・再生可能エネルギーのポテンシャルを最大活用

・建物の省エネ化・再エネ利用・蓄電池の導入

・未利用熱やカーボンニュートラル燃料(バイオマス)の活用

・スマート農業、光熱費の見える化などのデジタル活用

・資源循環=3R(リユース、リデュース、リサイクル)の推進

・CO2「実質ゼロ」などのオフセットされた電力を購入

・森林や里山によるCO2吸収量の確保

(令和3年6月9日の国・地方脱炭素実現会議における地域脱炭素ロードマップより)

地元漁業からも歓迎される洋上風力発電

環境省のロードマップでは、まず2025年までにモデルとなる自治体がいくつも立ち上がり、その成功事例が周囲の自治体へと影響を与えていく「脱炭素ドミノ」を起こしたいとしています。その通りにいくかどうかは未知数ですが、脱炭素の取り組みは自然エネルギーの活用や住宅の省エネ化など、地域の特性に合わせたものにしなくては効果の上がらないものが多いため、上からの決まったやり方を浸透させるのではなく、それぞれの地域での事例こそが重要となるのです。

すでに全国でさまざまな取り組みが始まっていて、例えば長崎県五島市では浮体式洋上風力発電が導入されています。風力発電では建設地に与える影響が懸念されますが、このケースでは風車の土台部分が魚たちの集まる漁礁となるため、地元の漁業関係者からも理解が得られているそうです。ウィンドファームの整備が完了すると、五島市のエネルギー自給率は80%にまで上がります。

出典:長崎県五島市プレスリリース

再エネで動く地域EVシェアリング

また、神奈川県小田原市では、電気自動車シェアリング事業が始まっています。先ほども述べたように、自動車での移動がメインとなってくる地域では、モビリティ(移動手段)の課題が脱炭素化の上でとても重要です。

小田原市では地元の再エネ事業者からの電力を充電にあてて、100台のEVをシェアリング。自動車を持たない人でも脱炭素の電気で近距離の移動ができるようにしました。鉄道やバスでは難しい移動を、地域の共用EVが補完するわけです。EVには大きな蓄電池が積み込まれていますから、常に充電しておくことで災害時には100台分の非常用電力としても使えます。このように、脱炭素型地域交通モデルの模索が始まっています。

出典:eemo(小田原市)のお知らせ

みなさんのお住まいの地域でも、自治体の取り組みがすでに始まっているかもしれません。例えば東京都、神奈川県、大阪府・大阪市、京都市などの大都市では、太陽光設備を安く導入できるキャンペーンが導入されています。ぜひ一度、自治体の情報をチェックして、暮らしに取り入れられるものがあれば利用してみるのも手ではないでしょうか。2050年のゼロエミッションまでの道のりはまだまだ遠いものですが、一人ひとりの意識と取り組みがなければ実現しないことだけは確かなようです。

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