【脱炭素社会】GX(グリーントランスフォーメーション)とは?基礎知識と事例6つ

地球温暖化による気候変動や自然災害に歯止めをかけることを目的として、二酸化炭素排出をゼロにする「カーボンニュートラル(脱炭素)」に関する取り組みが世界的に強化されています。その一環として「GX(グリーントランスフォーメーション)」について表明する企業も増えてきました。

この記事では、GX(グリーントランスフォーメーション)の基礎知識や、企業の取り組み事例を紹介します。

GX(グリーントランスフォーメーション)とは?

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、環境破壊や異常気象による自然災害、プラスチック問題や公害といった様々な環境問題を先進技術の力で解決することで、カーボンニュートラルなどの持続可能な社会の実現を目指す取り組みのことです。

日本においては、2020年に菅政権が「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」というカーボンニュートラル宣言を表明しました。この実現に向けて、政府はこれまでのビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要があると民間企業に呼びかけています。このように、経済と環境の双方の好循環を生み出すことがGXの中核となっています。

※カーボンニュートラル…二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量に対し、森林管理などによる吸収量を均衡させ、実質的に「排出ゼロ」にすること

関連記事:脱炭素とカーボンニュートラルの違いとは?脱炭素社会に向けてできることは?

GX(グリーントランスフォーメーション)が注目されている3つの理由

どうして、GX(グリーントランスフォーメーション)が世界的に注目されているのでしょうか。その理由として、以下の3つが挙げられます。

気候変動による自然災害・異常気象

第一に、地球温暖化をはじめとした環境問題に対する人々の意識が高まっていることが挙げられます。

近年、豪雨による洪水や干ばつ、異常乾燥による大規模な山火事など、これまで経験したことのない異常気象や自然災害が世界中で頻発しています。このような災害は、人々の生活や経済に多大な損失をもたらす可能性を秘めています。例えば、干ばつによる食料不足、海面上昇による国土の水没、気候変動に対する対策費用の増加や健康被害など、私の生活にも直結している問題なのです。

このような観点から、経済発展と環境保護を両立させなければ成長を持続していくことはできず、そのための投資を惜しむべきでないという考え方が強まっています。

アメリカ・中国が脱炭素社会への転換を表明

アメリカと中国という大国が脱炭素に向けて舵を切ったことも理由のひとつです。

世界の二酸化炭素排出量は、1位が中国、2位がアメリカとなっており、両国は脱炭素に向けた議論において欠かせない存在です。にもかかわらず、トランプ政権下にあった2020年11月にアメリカがパリ協定を離脱、中国は2030年まで温室効果ガス排出量の増加はやむを得ないという姿勢を提示するなど、各国と足並みのそろわない態度を見せてきました。

しかし、現アメリカ首相であるバイデンは、公約として2035年の電力脱炭素の達成や、2050年以前の温室効果ガス排出ゼロといった目標を発表。中国も、2060年までにカーボンニュートラルを達成すると発表しました。

両国の方針転換の背景には、経済的な機会損失や国際的な影響力低下への懸念があります。これまで環境問題を巡る議論においては欧州諸国が世界をリードし、高い目標値を掲げてきました。その結果、技術力を向上させてマーケットシェアを高めたり、利益を生み出したりする企業が増えてきています。このまま問題を放置しておくと、両国にとって損失に繋がりかねないという危機感が芽生えたことが、方針転換の契機となったようです。

再生可能エネルギー事業の収益性向上の期待

技術進歩とともに、再生可能エネルギーを導入するコストが低下したことも重要な観点です。

引用:太陽光発電システム非住宅(10kW以上)の状況 – (設備利用率 12% 13.6% 15% 14.6% 15.1% 15.6%)

 

例えば、日本の太陽光発電による産業用電力の発電コストは、2012年時点で26.1円/kWh、2019年には13.1円/kWhと、低下を続けています。さらに、風力発電の発電コストは2019年で11.1円/kWhでしたが、2030年には6.6円/kWhまで低下する見通しです。このことから、太陽光発電事業に新規参入する企業は急激に増加しています。

さらに、欧州では再エネに対して事業者が入札しやすい環境を整えたり、開発を支援したりしたことから、新規参入する企業が増えてさらにコストが低下、導入がもっと加速するという好循環を生み出しています。事業としての収益性が高まったことで、企業の自主的な参画を促すことに成功しています。

GXリーグとは?

GXリーグとは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた具体的な取り組みについて、参画企業や政府、金融機関、大学などの研究機関などが一体となって議論する場を指します。経済産業省が2022年2月1日にGXリーグの基本構造を発表し、参画企業の募集を行ったところ、2022年3月31日までに440社の企業が集まりました。2023年度より具体的な取り組みをスタートする見込みです。

GXリーグの目的は、「経済社会システムの変革」であり、持続可能な社会と経済発展を両立させた世界の実現を目指すものです。また、このような世界を実現することによって、消費者のライフスタイルや環境への意識の変化を起こすことも、GXリーグの目的の一つです。

GXリーグでは、以下の3つの取り組みを軸に行うことを表明しています。

 

  • 未来社会像対話の場:2050年のカーボンニュートラルを実現するための議論やテストを行う場
  • 市場ルール形成の場:カーボンニュートラル時代の市場のあり方やルールを議論する場
  • 自主的な排出量取引の場:企業が自ら掲げた温室効果ガス削減目標に向け、自主的に排出量取引を行う場

 

参照:経済産業省|GXリーグ基本構想

GXリーグに参画する企業に求められる取り組み

GXリーグに参画する企業には、具体的に以下の3つの取り組みを行うことが求められています。

 

  • 自らの排出削減の取り組み
  • サプライチェーンでのカーボンニュートラルに向けた取り組み
  • 製品・サービスを通じた市場での取り組み

 

それぞれ詳しく解説します。

自らの排出削減の取り組み

GXリーグに参画した企業は、2050年のカーボンニュートラルに賛同したうえで、自社での削減目標の設定と、目標達成に向けた計画を立てることを求められます。また、中間目標として2030年の削減目標も併せて掲げるとともに、毎年の削減に向けた行動や努力について公表することも求められています。

任意要件として、日本がパリ協定で定めた「2013年比で2030年までに46%の温室効果ガス削減」という目標よりも、さらに高い目標を掲げるよう促進していることも特徴です。カーボンクレジットや他社との削減量取引によって排出量を調整することも認められており、企業ができるだけ高い目標を掲げられるよう配慮されています。

サプライチェーンでのカーボンニュートラルに向けた取り組み

サプライチェーンとは、製品を製造するにあたって材料の調達から製造、輸送、販売など、商品が消費者の手元に届くまでの一連の流れに関わる、すべての企業や消費者のことを指します。参画企業は、サプライチェーン全体で2050年のカーボンニュートラルに向けた取り組みを共有し、支援することが求められます。

また、商品が消費者の手元に届いてからも、脱炭素への取り組みに関する情報を消費者に提供することで、環境問題への意識向上をサポートすることも必要です。そのために、自社製品を製造する過程で発生した温室効果ガスの排出量を製品上に表示する、カーボンフットプリント(CFP)を実施するなどの対応も行う必要があります。

さらに、自社での排出量削減目標と同じように、サプライチェーン全体での排出量削減目標についても中間目標である2030年の目標を設け、移行戦略を練ることも任意要件となっています。

製品・サービスを通じた市場での取り組み

参画企業は、グリーン製品を積極的に購入することで、自ら市場のグリーン化を促進させることも求められています。また、消費者やステークホルダー、教育機関などとの気候変動に関する対話の中で気づいたことを経営に取り入れることで、常にイノベーション創出を行うことも要件とされています。イノベーションに取り組む他社やその他のプレイヤーと共働を図ることで新たなグリーン製品やサービスを生み出し、温室効果ガス削減を促進させることも必要です。

また、カーボンオフセット製品を市場に投入し、消費者が排出量を調整できるよう配慮を行うこともグリーン市場拡大につながります。自らグリーン製品を購入することで需要を作り、市場全体のグリーン化を図る取り組みが求められています。

GXリーグに参画するメリット

企業がGXリーグに参画することで、地球環境に配慮すること以外にもさまざまなメリットがあります。ここでは、代表的なメリットを3つ解説します。

地球環境保護への貢献

GXリーグの目的は、地球環境を守ることと、経済社会の発展を両立させることにあります。GXリーグでは再生可能エネルギーの生産や温室効果ガスを吸収するなどの事業に関わるため、地球環境の保護に貢献できることは第一のメリットといえるでしょう。例えば、自社に太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを導入した場合、温室効果ガスの削減に貢献していることになります。

自社のコスト削減

地球環境へのメリットだけでなく、自社への直接的なメリットがあることもGXリーグの特徴です。地球環境に貢献する活動は、いわば省エネやエコに関する活動を促進するという取り組みを指します。自社で使用するエネルギー使用量を削減することで、必然的にコストも安くすることが可能です。

また、再生可能エネルギーの導入は年々コストが下がっていることから、再生可能エネルギーへの移行にかかるコストも今後減っていくことが期待されます。資源エネルギー庁のデータによると、2030年には事業用太陽光発電の発電コストは5.8円/kWh、風力発電の発電コストは6.6円/kWh程度と、2019年の発電コストの半分以下の費用で発電できるようになる見通しが立っています。
 

出典:資源エネルギー庁|国内外の再生可能エネルギーの現状と 今年度の調達価格等算定委員会の論点案
 

企業のブランディング

環境問題への取り組みを行う企業は、取引先やステークホルダー、消費者などからの信頼が増すことによって自社のブランディングにもつながります。多くの企業が取引に応じてくれるだけでなく、社会的な評価が上がることで投資家から資金を集めやすくなることもメリットの一つです。

また、SDGsへの意識の高まりによって環境問題に関心を持つ人が増えたことから、環境に配慮した企業への就職を希望する人も年々増えつつあります。自社に多くの就職希望者が集まることで、優秀な人材確保への期待も高まります。

GX(グリーントランスフォーメーション)の取り組み事例

 

それでは、実際にGX(グリーントランスフォーメーション)に取り組んでいる企業は、どんな施策を実行しているのでしょうか。国内外を事例を、6つご紹介いたします。

トヨタ

2019年の日本の二酸化炭素総排出量は11億800万トンで、そのうちの2億600万トンを輸出部門が占めています。カーボンニュートラルの実現において、化石燃料で動く自動車のGXは重要課題といえます。そんな中、エコカーへの切り替えをけん引してきたのは、国内最大の自動車メーカーであるトヨタです。

  • 1997年から世界初の市販ハイブリッド車であるプリウスを発売。当初は「価格が高すぎる」「速度が出ない」といった批判も大きかったの、現在では人気の既存車種でもハイブリッド仕様を販売するように
  • ものづくりにおいては、2035年までに全世界にある自社工場の二酸化炭素排出を実質ゼロにすると発表。特に二酸化炭素排出の多い塗装と鋳造の工程で重点的に脱炭素化に取り組む

マイクロソフト

マイクロソフトは、多くの企業が二酸化炭素排出の「実質ゼロ」を目標とする中で、「カーボンネガティブ」という目標を打ち出しています。具体的な取り組み内容は以下の通りです。

  • 2030年までに直接的な排出やサプライチェーンに関する排出も含めて二酸化炭素排出量を半減し、さらに、創業以来排出してきた二酸化炭素よりも多くの二酸化炭素を除去することで、これまで環境にかけてきた負荷を相殺すると発表
  • 具体的には、植林や土壌炭素隔離、バイオマス発電などに取り組無駄な無駄な

二酸化炭素除去に関するテクノロジーの開発や加速に向けて、2020年からの4年間で10億ドルを投資

 

アマゾン

Amazonは、2019年にパリ協定の目標をさらに10年前倒しすることを骨格とした「The Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)」に調印したことを発表しました。

  • 2040年までにカーボンニュートラルの実現を目指す
  • マイクロソフトやウーバー、IBMといったグローバル企業が参加しており、2021年2月時点での参加企業は53社となっている
  • 全配送車両を2030年までに電気自動車に置きかえる計画も発表。この取り組みにより、年間の二酸化炭素排出量を400万トン削減する
  • 2024年までに再生可能エネルギーの電力比率を80%、2030年までに100%にする
  • 森林再生に1億ドルの投資

 

グーグル

グーグルは、2007年にすでにカーボンニュートラルを達成しており、さらに「カーボンレガシー(二酸化炭素排出量の遺産)」の相殺にも成功したと発表しています。

  • 2020年に、1998年の創業から2007年のカーボンニュートラル達成までの間に排出してきた「カーボンレガシー」の相殺に成功
  • 2030年までに世界中の事業所やデータセンターにおいて、二酸化炭素を排出しないカーボンフリーエネルギーに転換する。この目標達成に向けて、太陽光発電や風力発電などを組み合わせ、バッテリー利用の貯蔵量を増やし、電力需要の予測や最適化を行うAI活用にも力を入れると発表
  • 主要拠点においてカーボンフリーエネルギーへ50億ドル以上を投資することも表明。実現すれば、最大2万人以上の雇用創出と年間1ギガトン以上の二酸化炭素排出量の削減が見込まれる

 

アップル

2018年にカーボンニュートラルを達成しているアップルでは、次のような取り組みを行っています。

  • データセンターなどの拠点で使う電力を、風力発電といったカーボンフリーエネルギーでまかなっている製造サプライチェーンや製品ライフサイクルのすべてを通じて、2030年までにカーボンニュートラルを達成することを目標として提示。これを受けて、世界17か国、71社のサプライヤーがアップル向けの製品や原材料を再生可能エネルギー100%で製造することを発表した。
  • 日本ではイビデン、太陽ホールディングス、日本電産、ソニーセミコンダクタ、セイコーアドバンス、日東電工、恵和、デクセリアルズの8社がカーボンニュートラルに向けた取り組みを強化すると表明。

 

アイ・グリッド・ソリューションズ

アイ・グリッド・ソリューションズは、AIを用いたエネルギーマネジメントや、太陽光発電による電力販売など、企業のGX戦略を支援する会社です。再エネ電力に関するソリューション提供という観点から、GX推進に寄与しています。

  • 子会社VPP JAPANでの取り組み商業施設や物流施設の屋根を利用することで、自然環境を破壊しない「分散型太陽光発電所」を推進。予測技術によってエネルギーを有効活用できるプラットフォーム『R.E.A.L. New Energy Platform®』を併用することで、エネルギーを施設だけでなく地域全体にめぐらせることを目指している
  • 関西電力と共同で、AIを駆使したエネルギーマネジメント支援サービスである「エナッジ」を開発。電力使用量の実績データと気象データをもとに、AIによって24時間先の電力使用量を予測し、省エネアドバイスによる自発的な省エネ行動を促すことを可能にした。
  • エナッジは2018年からニトリをはじめとする実店舗でのサービス提供を開始しており、現在も機能拡大中。
  • 税理士事務所と提携し、顧問先に新電力を導入する取り組みもスタート。電力見直しは環境保全につながるだけでなく、固定費の削減というメリットを企業にもたらし、経済推進と環境保全の両立に成功している。

 

まとめ

GXは、世界中の様々な企業によって自主的な取り組みが進められています。もちろん、大企業に限った話ではありません。大企業がカーボンニュートラルに対する方針を打ち出したことで、関連のある中小企業にも取り組みの輪が広がっています。

アイ・グリッド・ソリューションズでは、再生可能エネルギーへの切り替えという手軽なGXの取り組み方を支援しています。「何から始めたらいいのかわからない」という企業は、まずは再生可能エネルギーの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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