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潮力発電とは?仕組み・メリット・デメリットをわかりやすく解説

カーボンニュートラル実現の目標まで期限が刻一刻と迫るなか、日本では新たな再生可能エネルギーの導入を検討しています。そのひとつが、潮の満ち引きを利用してエネルギーに変換する潮力発電です。

本記事では、潮力発電の概要やメリット・デメリット、日本の取り組みの現状、世界における潮力発電への動きなどについて解説します。再生可能エネルギーの導入を検討している企業の部署の方や、環境問題に興味のある方はぜひ最後までご覧ください。

潮力発電とは?仕組みを解説

潮力発電とは、文字通り潮の満ち引きを利用して発電する、再生可能エネルギーのひとつです。地球の海面は12〜24時間ごとに高さが変化しており、潮力発電では、その位置エネルギーを利用して発電します。満潮時に貯水し、干潮時に放水することによって、タービンを回す仕組みです。

潮力発電には、干潮時の一方向のみのエネルギーを活用する方法と、満潮・干潮の双方の流れを利用して発電する方法に分けられます。潮の満ち引きは周期的に起きる現象であり、満潮になる時間と干潮になる時間を予測できることから、潮力発電は発電計画を立てやすい発電方法としても注目されています。

潮力発電が日本で正式に稼働されるようになれば、1年中安定的にエネルギーを確保できる再生可能エネルギーのひとつとなるでしょう。島国である日本は海に囲まれているため、潮力発電を含む海洋エネルギーは特にポテンシャルが高いといわれています。

潮力発電が注目されるようになった背景は?

地球温暖化や気候変動と呼ばれる現象が世界中で顕著に現れている昨今において、企業や一般家庭では、二酸化炭素を排出しない取り組みが進んでいます。カーボンニュートラルや脱炭素社会を実現するためには、石油燃料に代わる自然エネルギーの導入が不可欠です。

自然エネルギーとは、太陽光発電や地熱発電など、自然の力を利用することで地球の資源を枯渇させずにエネルギーを生み出すものです。再生可能エネルギーとも呼ばれます。潮力発電も再生可能エネルギーのひとつであり、海に囲まれた海洋国である日本では、潮力発電や風力発電などの海洋エネルギーの普及が今後期待されています。

すでにフランスでは1966年から海洋エネルギーが導入されており、その他のいくつかの国でも海洋エネルギーの開発や普及が活発化しつつあります。

潮力発電と波力発電の違いは?

潮力発電に似た言葉として、波力発電があります。潮力発電が潮の満ち引きを利用して発電を促す仕組みである一方で、波力発電は波の上下運動の際に生じる気流を利用し、タービンを回してエネルギーに変換する仕組みです。

また、潮力発電では比較的浅い海に設備を設置します。一方の波力発電は、防波堤や海中に設備を埋めて発電することが一般的です。どちらの発電方法も、太陽光発電や風力発電のように発電量が天候に左右されないため、発電量をあらかじめ把握できるなどのメリットがあります。

潮力発電のメリット

潮力発電のメリットは、第一に化石燃料を使用しない自然エネルギーであることです。二酸化炭素を発生させないだけでなく、地球の限りある資源を枯渇させない面でも、環境にやさしい発電方法といえるでしょう。

もうひとつは、同じく海洋エネルギーである風力発電や、太陽光の力で発電する太陽光発電のように、天気によって発電量が変わることがない点です。潮の満ち引きは予測が立てられるため、計画的に電気を作れる点もメリットといえるでしょう。

その他、海に囲まれた環境である日本は潮力発電の開発に有利であること、海中にタービンを設置する潮力発電は景観を損ねる心配がないことなども、メリットとして挙げられます。土地を区画整備したり、景観への配慮が必要だったりするその他の再生可能エネルギーと比べ、発電所を設置するハードルは低いといえます。

潮力発電のデメリット

潮力発電では、コストの高さが大きな課題として挙げられます。潮力発電の発電コストが23〜32円/kWhであることに対し、火力発電の発電コストは12〜13円/kWh、家庭用太陽光発電の発電コストは17〜18円/kWhと割安です。

また、海の中にタービンを設置する潮力発電は塩分で劣化が進みやすく、材料の腐食や発電機内部への漏水などが起きるリスクもあります。機器の耐久性が低くなると、エネルギーの効率的な生産が難しくなることもあるでしょう。

日本は四方を海に囲まれているといっても、実際にはタービンを設置できる地域は限られています。潮力発電を行うことで十分な発電が期待できること、また漁業権の制約がないことなど、考慮すべきポイントが複数あるからです。

潮力発電における日本の現状は?

世界的にみると、潮力発電の開発に遅れをとっている日本ですが、昨今では大規模な潮力発電に関する取り組みがスタートしています。2014年に始まった「潮流発電技術実用化推進事業」では、長崎県の五島市が海洋再生可能エネルギーの実証区域に選定され、潮流発電システムの開発が進められています。

2019年には、英国で採用されているSIMEC ATLANTIS ENERGY社の発電機を活用し、潮流発電の実証を開始しました。2021年には、発電機を実際に海底に設置し、2021年5月には、電気事業法に基づいた検査に合格しています。

2022年1月には、「令和4年度潮流発電による地域の脱炭素化モデル構築事業」において、長崎県五島市が国内初となる商用大型潮流発電による実証試験として採用されています。2024年現在では初歩段階の実験は終わっており、まもなく国内初の導入が進む見通しです。

五島列島での事業を先導している九電みらいエナジーでは、潮流発電を導入するだけでなく、最大の課題であるコスト削減に向けた取り組みも同時に行っています。

世界各国における潮力発電の現状は?

世界では、すでに潮力発電の導入を積極的に行っている国もあります。ここでは、イギリス・カナダ・フランス・韓国の事例をそれぞれみていきましょう。

・イギリス

イギリスには、北海油田開発による海洋資源開発ノウハウが豊富にあるため、世界のなかでも特に積極的に潮力発電を開発している国です。特にスコットランド周辺の海域は潮力発電に適した環境であるため、次々と多くのプロジェクトが進んでいます。

・カナダ

カナダでは、日本の企業である中部電力と川崎汽船によって、「イシュカ・タパ潮流発電事業」が進められています。2023年には1基目の運転をスタートし、15年間の電力販売契約を結びました。

・フランス

フランスでは1966年から潮力発電が実施されており、2024年現在においてもなお稼働中です。フランスの全電気消費量の0.12%が潮力発電で占められており、安定的に供給できるエネルギーとして活用されています。

・韓国

韓国では、2011年より始華湖で潮汐発電所の稼働が始まり、10基の潮力発電設備が設置されています。現在は韓国が世界最大規模の潮力発電所を有しており、今後も潮力発電の開発を拡大していくと予想されます。

潮力発電は海と接点が多い日本で注目されている再エネのひとつ

海に面している土地が豊富な日本では、潮力発電の今後の導入拡大が期待されます。現在行われている五島列島の実証事業が順調に進めば、国内の他のエリアにも徐々に潮力発電の拡大が進んでいくでしょう。

潮力発電の開発によって新たな再生可能エネルギーが生まれれば、環境保全やカーボンニュートラル実現の可能性がより広がります。コストや発電機劣化の問題などを払拭し、潮力発電を日本の安定的なエネルギーのひとつにしていけるよう、動向を見守っていきましょう。

 

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