企業の社会的責任(CSR)とは何か簡単に解説。実践例もあわせて紹介
企業の社会的責任(CSR)とは、企業が経営活動を行うにあたって、自社の利益だけでなく、環境保護や次世代育成、人権などに配慮しながら責任ある行動を選択していかなければならないという考え方です。企業の社会的責任を果たすためのCSR活動には、7つの原則が定められています。
本記事では、企業の社会的責任の概要やCSR活動に取り組むメリット・デメリット、大手企業のCSR実践例などを解説します。企業の経営部門の方や経営学部の学生の方は、ぜひ参考にしてください。
企業の社会的責任(CSR)とは?
企業の社会的責任(CSR)とは「Corporate Social Responsibility」の略であり、企業が社会的な存在として果たすべき責任のことです。企業には、自社の利益を追求するだけでなく、環境や人権などにも配慮した、持続可能な経営を行うことが求められています。
企業の社会的責任(CSR)を実践するうえで参考になる考え方の一例として、経済(利益)・環境(地球)・社会(人)を重視する「トリプル・ボトム・ライン」があります。それぞれの具体的な内容は以下の通りです。
・経済(利益):企業の利益や損益など
・環境(地球):環境に配慮した経営や商品開発など
・社会(人):従業員の福利厚生や地域社会との共生など
昨今では、環境問題や人権問題などの課題解決に向け、国際的な関心が集まっています。国や国際機関のみならず、企業においても社会的な責任を果たすための取り組みをいかに行っているかが重視されつつあるのです。
企業の社会的責任が広まった背景
企業の社会的責任が広まった背景のひとつに、企業の不祥事への批判が高まったことが挙げられます。
例えば、1970年代に起こったオイルショックでは、小売企業による便乗値上げや売り惜しみ、買い占めなどの行動により物価が高騰しました。2000年代には、食品の品質問題や事故の隠蔽などの不祥事も相次ぎ、消費者の企業に対する不信感は年々高まっています。
また、経済活動のグローバル化によって、進出企業が発展途上国に与えるさまざまな影響も、社会的責任が問われるようになった背景のひとつです。進出企業が現地の従業員を雇う場合、賃金や労働環境などによって人権が脅かされることがないよう、企業は配慮する必要があります。
企業が事業活動を行うにあたっては、環境に配慮することが不可欠です。地球の資源を必要以上に使ったり、有害物質を排出したりして環境破壊に加担することがないよう配慮しなければなりません。昨今では、地球温暖化や気候変動が急速に進み、企業の経済活動においても、環境を保護する姿勢がより一層求められています。
企業の社会的責任の7つの原則
企業の社会的責任(CSR)の実行にあたっては、国際的な統一基準であるISO26000が定められています。国際規格ISO26000における、企業の社会的責任「7つの原則」の詳細は以下の通りです。
・説明責任
企業が事業活動によって社会に与える影響について、ステークホルダーに十分な説明を行うこと
・透明性
経営陣の意思決定や企業の活動内容について、社会に対し透明性を保つこと
・論理的な行動
企業活動を、誠実性や公平性などの倫理観に基づき行うこと
・ステークホルダーの利害の尊重
株主をはじめ、消費者・従業員・債権者・取引先などあらゆる利害関係者に配慮した企業活動を行うこと
・法の支配の尊重
自国の法令はもちろん、自社に適用される他国の法令を守ること
・国際行動規範の尊重
法令にあわせ、国際的な規範を尊重すること
・人権の尊重
普遍的かつ重要な人権を尊重すること
サステナビリティ・SDGs・コンプライアンスとの違いは?
企業の社会的責任と似た言葉に、サステナビリティ・SDGs・コンプライアンスの3つがあります。
サステナビリティとは、日本語では持続可能性と訳され、現在の社会的機能を将来も継続・維持できることを意味します。また、持続可能性を実現するためのシステムやプロセスを指すこともあります。サステナビリティは、企業が社会的責任を果たすうえで重視すべき要素のひとつであり、CSRの中に含まれている概念といえるでしょう。
SDGsとは、持続可能な開発を行うために設けられた、17の国際目標を指します。SDGsで掲げられている目標は、企業が社会的責任を果たすにあたって重要な要素です。ただし、SDGsはあくまで普遍的な目標を意味するため、CSRとは異なる概念といえます。
コンプライアンスとは、法令や社会的規範を守ることを意味し、先述したISO26000における7つの原則に通じるものでもあります。企業が社会的責任を果たすためには、コンプライアンスを徹底することは最低限必要なことであるといえるでしょう。
企業がCSR活動に取り組むメリットとは?
企業がCSR活動を行うメリットは多くあります。たとえば、企業イメージの向上です。CSRを行うにあたって7つの原則を遵守する必要があるため、必然的に不祥事を起こしにくくなります。
企業イメージが向上すると、自社の商品やサービスの信頼性も増すため、利益の拡大も期待できるでしょう。また、コンプライアンスを遵守することで、法令違反によるペナルティを防いだり、社会的評判を下げることを防いだりする効果もあります。
信頼できる企業で働くことによって、従業員のモチベーションが高まることもメリットです。従業員が定着しやすくなることはもちろん、学生や転職希望者にも良い印象を与えられるため、人材採用の面でも有利に働くことが期待できます。
また、顧客や取引先などに向けてCSR活動を実施していることをアピールできれば、さらに良好な関係性を築くことにもつながります。CSR活動は投資家にも好印象を与えられるため、事業資金を調達しやすくなることもメリットです。
企業がCSR活動に取り組む際に発生しうるリスクやデメリットも要確認
CSR活動においては、コストが増加するデメリットもあります。CSR活動は長期的に見るとメリットが大きいものの、短期的もしくは直接的な利益にはつながりにくいため、投資をするモチベーションにつながりにくいでしょう。
また、CSR活動を行うためには人員を確保する必要があるため、人材不足により現実的に不可能である企業も多いかもしれません。無理にCSR活動に人材を割けば、コスト増加や慢性的な人員不足につながるおそれもあります。
短期的な売り上げにつながらないCSR活動に取り組むことは、業務効率の面でもデメリットに感じるでしょう。企業においては、CSR活動のデメリットを踏まえたうえで、長期的な視点で取り組む姿勢が必要です。
大手企業におけるCSR活動の実践例を紹介
大手企業における、CSR活動の具体的な取り組みを紹介します。
ダイキン工業株式会社
ダイキン工業では、環境・社会・ガバナンスに関する課題を中心に、サステナブル社会への貢献と事業成長の両立を目指すCSR活動を行っています。中でも環境問題への取り組みには力を入れており、省エネ性の高い電化製品の開発によるカーボンニュートラルへの挑戦や、生物多様性の保全に注力した経営を行っています。
例えば、植林活動を行う「空気を育む森プロジェクト」は、森林再生による環境保全を目指す取り組みです。また、従業員や顧客、地域社会などのステークホルダーと積極的に対話を行い、自社の成長を試みる活動も、企業の社会的責任を果たすための取り組みとして導入されています。
トヨタ車体株式会社
トヨタ車体では、「豊かな社会づくり」「お客様第一よい商品」「創造力と活力」「共存共栄」を基本理念に掲げ、これらを実現するためのCRSマネジメントに取り組んでいます。中でも、多様なステークホルダーとの価値協創を重視し、従業員のエンゲージメント向上や、自律型人材の育成に力を入れた取り組みが特徴です。
また、長期的な視点で環境負荷を削減する挑戦「トヨタ車体 長期環境ビジョン」では、新車や工場のCO2ゼロチャレンジや、循環型社会システムの構築など、環境保全にも注力しています。その他、国内外における植林・緑化活動、車椅子利用者の移送サービス、小中学校への出前授業など、福祉活動や次世代の育成にも積極的に取り組む企業です。
武田薬品工業株式会社
武田薬品では、世界中のすべての人々が十分な保健医療を受けられるよう、多くの団体とCSRパートナーシップを組み、さまざまな活動を行っています。具体的な活動内容は、パンデミックへの備え、出産時の母子健康、医療従事者のトレーニング、災害復興支援などです。また、グローバルヘルスの長期支援策として、2016年にはグローバルCSRプログラムをスタートしています。
グローバルCSRプログラムの内容は、途上国における疾病予防や質の高い医療へのアクセス改善など、中長期的な課題解決であることが特徴です。支援内容は、武田薬品工業の全従業員による投票によって毎年決められており、2023年には「カリブ海における気候変動への備えと回復力強化」など、5つのプログラムが実施されました。
どんな企業も、責任感を持ってCSR活動に取り組むことが大切
企業活動においては、自社の利益追求だけでなく、環境保全や次世代への配慮など、社会的存在としてさまざまな視点で責任を果たすことが求められます。CSR活動を行うことで、従業員や取引先からの信頼も強化され、結果的に自社の発展へとつながっていくでしょう。
どの企業も自社の経営活動に責任を持ち、社会貢献と自社の発展を同時に実現させていけるよう、できることからCSR活動に取り組みましょう。
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