フェアトレードでできる気候変動対策とは?【インタビュー】フェアトレード・ラベル・ジャパン 中島佳織さん

フェアトレードとは、「フェア」な価格・条件で継続的に購入し、適正な価格で取引することによって、開発途上国の生産者が自らの力で生活を改善し、環境に配慮したり、より高品質なものを作れるようにサポートしたりするという仕組みです。

詳しくはこちら▷ 5月はフェアトレード月間。フェアトレードを選ぼう、サステナブルな未来のために。<前編>

本記事では「フェアトレードと気候変動」をテーマに、フェアトレード・ラベル・ジャパンの中島佳織さんからお聞きした内容をまとめています。

 

ー最新のフェアトレードの市場動向についてお教えください。

グラフ引用:認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン|国内フェアトレード市場規模196億円、前年比124%と急拡大 前年比+38億円と推計史上最大の伸び幅を記録

2022年のフェアトレード市場規模は前年比124%の196億円となりました。これは過去10年間で最大の伸び率を記録しています。

市場規模拡大の背景には、フェアトレード商品を企画・販売する既存の認証取得企業とフェアトレード新規参入企業の売り上げが増加したことがありますが、大きな伸び幅を記録した要因は大きく分けて2つ理由があると考えています。

1つ目はSDGsの社会的関心が向上したことです。

SDGsが広まるにつれて、その過程でフェアトレードも語られる機会や、フェアトレードの仕組みや取組に共感した方が増えたことで、市場規模も拡大していると考えられます。

2つ目に考えられる理由として、コロナ禍を境に生産者や生産地を考えて商品を手にする人が増えたことです。

コロナによって日々の生活が制限され、世界との繋がりが絶たれてしまいました。今までは様々な国と国とが貿易を行い、農作物など輸出入によって支え合っていましたが、コロナ禍の環境下で貿易の制限もされてしまいました。世界との繋がりを閉ざされたことによって今までどれだけ支えあって生活できていたのか、と”知るきっかけ”になったことが、生産者や環境に配慮した商品を選ぼうという意識の高まりに繋がったと思います。

この大きな2つの理由から既存商品の売上向上、消費者の購入回の増加、また企業としても調達にフェアトレードを取り入れるケースが増えている傾向にあります。

しかし過去10年間最大の伸び率を記録している一方で、まだまだ日本のフェアトレード市場は限られています。フェアトレードインターナショナルの本部があるドイツと比べると市場規模は1/17、一人当たりのフェアトレード認証商品購買金額が最も大きいスイスと比べると1/101というのが現状です。とはいえ、伸び率はドイツ、スイスよりも日本の方が大きいため徐々に差は縮まっていくと思います。

 

ー気候変動は生産地にどのような影響を与えているのでしょうか?

写真提供:認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン

気候変動の観点では、発展途上国を中心に対応する力をまだ持っていないケースが多くあります。途上国では温室効果ガスをあまり発生させていない生活を営んでいる方々が多いにも関わらず、気候変動によるダメージを大きく受けているという状況なのです。私たちは温室効果ガスの削減に加えて、既に起きてしまっている変化にどのように対応していくのかを考えていく必要があります。

たとえば、気候変動問題によって悪影響が生じる代表的な産品にコーヒーがあります。

世界のコーヒー市場の6割を占め、高品質なコーヒーとして取引されているアラビカ種は2050年までに気候変動の影響によって栽培地が半減すると言われています(コーヒー2050年問題)。

コーヒー2050年問題は私たちに「コーヒーが飲めなくなる」「コーヒーの価格が上がる」といった影響をもたらしますが、生産地ではもっと深刻な問題も考えられます。

具体的にアラビカ種のコーヒー豆の生産でお話すると、アラビカ種のコーヒー豆は標高が高い山での栽培を主としています。気候変動による気温の上昇により、今まで発生しなかった病害虫が発生し収量の低下に繋がっています。

病害虫を避けるためにはさらに標高が高い土地での生産を強いられてしまいます。

土地を変えたことによってすぐには生産環境が改善されるとは限らないため、その結果、生産者の負担の増加や収量の低下を及ぼし、収入が減少するという悪循環を巻き起こします。

これはコーヒーの生産に限った話ではなく、気候変動は様々な農作物へ影響を与えているのが事実です。

 

ー気候変動により様々な影響が及ぼされてしまうのですね。他にどのような事例があるのでしょうか?

フェアトレード・ラベル・ジャパン「ミリオンアクションキャンペーン2023」キックオフイベントの様子
(写真右より、ジャーナリストの堀潤さん、エシカルコーディネーターのエバンズ亜莉沙さん、フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長・潮崎真惟子さん)

私たちが主催する『フェアトレード ミリオンアクションキャンペーン2023』のキックオフイベントで、国際ジャーナリストの堀潤さんにご登壇いただいたのですが、堀さんは

「環境破壊や気候変動などで耕せる土地が少なくなると土地の奪い合いになり、紛争が生まれます。紛争地帯では人々は避難しなければならず、耕作放棄地は増え耕せる土地はさらに減少。紛争は激化し、人々は武装勢力にリクルートされるという悪循環が生まれる」

と語られていました。

一方で、フェアトレードによって紛争からの復興に取り組む事例もあります。コンゴ民主共和国では何十年にも渡る内紛ののち、再び国へ戻る人々が増えました。長年の紛争で荒廃した土地に再びコーヒーを植え、そこで栽培されたコーヒー豆をフェアトレードとして販売することで、人びとが生活を立て直そうと取り組んでいます。イギリスの大手小売企業のサポートもあり、取引されたコーヒー豆はプライベートブランドのフェアトレード認証コーヒーとして商品化され販売・流通しています。適正価格で取引されたコーヒー豆の収入によって国や経済の立て直しを図っているのです。

また堀さんは「日本でも同様の事例が起きている」とも仰っていました。

例えば、数年前に台風により被害を受けた伊豆大島では復興をおこなうものの、次々に災害に見舞われる状況だそうです。気候変動対策に予算をつぎ込まないと安心して農業、漁業を行う計画すら立てられない。日本は諸外国を支援するだけではなく、国内でも実際に起きている気候変動への対策・支援が必要だと。

気候変動の影響やその対策の必要性は、遠い国の誰かの話ではなく、私たちの生活にも関わることなのです。

 

ーフェアトレードが気候変動対策に繋がる仕組みをお教えください。

生産者たちがフェアトレードの取引量に応じて受け取るプレミアムという資金は、生産者組織や地域コミュニティの社会的・環境的発展のための原資となります。作物の多様化、灌漑設備やグリーンエネルギーの導入、霜害対策など様々な取り組みに活用されることで、安定的な生産へと近づくことが可能になります。

もし作物が多様化していたら、台風や干ばつなどが発生した際に、一度の被害で収益ゼロに直結する可能性が少なくなります。気候変動被害が発生したときの抵抗力になりますよね。

また気候変動の影響で大雨や干ばつなど、両極端の異常気象が増える中、テクノロジーを活用し気候の変化を観測して栽培や収穫計画に役立てたり、新たな気候に適応した品種を導入したりと、持続可能な農業の実現に向けての財源にもなり得ます。

今回の『フェアトレード ミリオンアクションキャンペーン2023』では1アクション1円の寄付先も、気候変動基金に決定しています。気候変動基金は中南米フェアトレード生産者ネットワーク団体CLACが実施している基金で、気候変動による影響を強く受けている中南米の生産者が気候変動レジリエンスを強化し、気候変動に適応した社会、経済、環境システムを構築するために行われています。資金サポートを希望する各生産者組合が、自らの組合に適した気候変動対策の実行計画を申請し、その内容を基金管理団体CLACが精査した上で支援先プロジェクトを決定します。

写真提供:認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン|途上国への寄付について

ーフェアトレード商品を日本市場でさらに広げていくために、企業ができることは何でしょうか?

フェアトレード商品の企画を考える際、大きく分けると、1つ目は全く新しいフェアトレード商品を企画する、2つ目は既存の商品をフェアトレード商品へ転換するという2つの大きな方法が考えられます。

特に2つ目に関して言えば、企業側がフェアトレード認証基準に沿ってサプライチェーンや取引の見直しを行い、すでに消費者から一定の認知を得て売上のある既存商品をフェアトレード商品化することで、必ずしも日頃よりフェアトレードを意識していない消費者の手にも自然と渡っていくこととなり、フェアトレード市場が広がっていくと考えています。

ただ、既存の商品をフェアトレード商品へ転換するには、サプライチェーンの再構築などのハードルを乗り越える必要もありますし、、新規フェアトレード商品を企画しても販路をいかに確保していくかの課題もあるかと思います。簡単なことではないかと思いますが、そこへチャレンジしている企業も確実に増えてきています。

企業が取り組むフェアトレード商品として、例えばイオントップバリュでは、プライベートブランドにてフェアトレード商品の販売を積極的に行なっています。コーヒーやチョコレート、ジャムなど、幅広いフェアトレード商品を扱っています。

他にはアイ・グリッドさんのように、来客された方にお出しするコーヒーをフェアトレード商品にする、というのもありますよね。選ぶものを変えることは、メーカーさんや小売業さんに限らずできることですから、ぜひ一緒にフェアトレードに取り組んでいただきたいです。

ミリオンアクションキャンペーン2023」キックオフイベントでのフェアトレード商品の展示

まとめ

本記事では「フェアトレードと気候変動」をテーマに、フェアトレード・ラベル・ジャパンの中島さんから伺ったお話をまとめました。

フェアトレードは、気候変動によって既に発生している様々な災害対策や新たな取組みの資金源として活用されており、地球と私たちの未来を守るものでもあります。ぜひ、こうした取り組みを知っていただき、商品選びの参考にしてみてください。

<ご協力>

認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン シニアディレクター

中島 佳織(なかじま かおり)さん

【プロフィール】

大学卒業後、化学原料メーカー勤務を経て、国際協力NGOでのアフリカの難民支援やフェアトレード事業、タイ・チェンマイでのコーヒー生産者支援プロジェクトに従事。その後、ケニア・ナイロビでの日系自動車メーカー勤務を経て、帰国後、2007年フェアトレード・ラベル・ジャパン入職。14年間、同事務局長を務め、2021年4月より同シニアディレクター。グリーン購入ネットワーク理事、一般社団法人日本エシカル推進協議会アドバイザー。共著に『ソーシャル・プロダクト・マーケティング』(産業能率大学出版部)など。

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