国境炭素税(CBAM、炭素国境調整措置)とは? 仕組みや目的について解説!

以前より各国内で導入されている炭素税*ですが、みなさんは”国境”炭素税についてはご存じでしょうか。

カーボンニュートラルに向けた取り組みとしてはもちろん、国際的な貿易に関わるリスクとしても各国で注目・検討されている、この国境炭素税ですが、EUは2023年内からの段階的な導入を決定しています。

本記事では、基本的な制度の仕組みや目的に加え、どんな効果があるのか、またどんな課題があるのか解説します。

 

*炭素税:二酸化炭素を排出する化石燃料や電気の使用量に応じて国内の企業や個人に課せられる税金

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国境炭素税とは?

国境炭素税は別名を炭素国境調整措置CBAM(Carbon Border Adjustment Measure)*とも呼ばれは、気候変動対策をとる国が、同じく気候変動対策をとっているが”その程度が不十分な国”からの輸入品に対して、その生産に際して排出された温室効果ガスの量に応じて、水際で炭素課金を行う制度のことです。

 

また反対に、自国からの輸出に対して水際で炭素コスト分の還付を行う場合もあります。

これにより、気候変動対策の強度が異なる国同士の製品でも、コスト競争の条件を合わせることができます。

*国境炭素税の別名:炭素国境調整措置:CBAM(Carbon Border Adjustment Measure)

※日本エネルギー経済研究会より画像引用

参考:日本エネルギー経済研究会資料

 

国境炭素税の目的

ではなぜ国境炭素税制度が考案されたのでしょうか。目的は、主に以下の2つです。

・カーボンリーケージの防止

・気候変動対策の推進

まずはカーボンリーケージについて説明します。

 

現在、国ごとに様々な気候変動対策がとられていますが、もちろんその規制の程度は国によって異なります。厳しい規制をしている国では、より厳格に温室効果ガスの排出量の削減等が求められ、対応して国内で製造される製品コストが上がります。それに比べて緩い規制の国では、求められる対策のレベルが低く、製品コストも相対的に下がります。気候変動対策に積極的に取り組む国の製品の方が、コスト競争上不利な状況になってしまうわけです。

そうした場合、産業はコスト競争上有利な気候変動対策の緩い国に移流していってしまうことが予想されます。この、国内の市場が炭素効率の低い輸入品に脅かされ、国内生産が減少することをカーボンリーケージといいます。

このカーボンリーケージを防ぐために、気候変動対策の強度が異なる国からの輸入品でも、国内の製品コストと競争水準を合わせられるように、国境炭素税が対策として考案されました。

また、上記のカーボンリーケージを放っておくと、世界全体でみたときの気候変動対策に貢献する企業の総量が増えず、結果的に温室効果ガスの排出量を減らすことができません。(どれだけ国内の気候変動対策を厳しくしても、気候変動対策の緩い国外に産業が移流し、そこで温室効果ガスの排出を続けては意味がありません。) そのため、国境炭素税によってカーボンリーケージを防止することは、国内の気候変動対策を、国内の企業や個人に正しく機能させることにつながるのです。

また輸出品にコストを上乗せされてしまうことを嫌った他国が、国内の気候変動対策を強化することにつながるかもしれません。その場合は、一国や一地域の国境炭素税が、気候変動対策をさらに世界へ広げるきっかけになる可能性もあります。

 

参考:日本エネルギー経済研究会資料オルタナ記事2022/12/13

 

背景およびEUにおける国境炭素税

そんな国境炭素税が注目を集めたのは、2021年7月にEUがその制度概要を発表したことでした。EU域内の国の気候変動対策の水準が域外の国と比べて高いことが、EUにおける国境炭素税検討の背景にあります。EUだけが気候変動対策を進めても、他国が同程度の対策をとらない限り、カーボンリーケージによって、求めている効果は得られないと分析されていました。

その後EUでは2023年中の施行が決定しました。2023年~2025年までは輸入事業者に輸入品に伴う温室効果ガスの排出量の報告を義務付け、それ以降に、輸入事業者に税金の支払いを義務付けるといった、段階的な導入を予定しています。

今回課税対象となるのはCO₂排出量が多い「鉄鋼」「セメント」「肥料」「アルミニウム」「電力」の5品目です。課税額は域内の炭素価格に準じるとされています。

 

参考:国際環境経済研究所2020/06/15オルタナ記事20210813

 

国境炭素税の効果と課題

これまでもあったように、国境炭素税に期待される効果としては、気候変動対策の強度が異なる国からの輸入品でも、国内の製品コストと競争水準を合わせることで、主目的であるカーボンリーケージの防止と、国内の気候変動対策が本来の機能を発揮することの2つが挙げられます。

また、貿易相手国内の気候変動対策の強化を促す影響も与えることができるかもしれません。

一方国境炭素税の課題としては、WTO(世界貿易機関)の”入品に国産品より高い基準を求めない”というルールとの整合性が懸念されています。国境炭素税の内容(課税額など)によって異なると思われますが、EUは今回導入する国境炭素税について、課税額をEU域内の炭素価格に準じたものに設定するため、当該ルールには抵触しないと主張しています。

また、EUに対象産業を輸出している国(特に中国、インドなどの途上国・新興国)は、自国製品の輸出にとって国境炭素税は大きな支障となるとして、強く反発しています。国境炭素税の内容上、他国に許可を求めて施行するわけではないので、見方によればかなり一方的な措置ともとれます。

上記の様に、貿易戦争を惹起する危険性や温暖化交渉に悪影響を及ぼすリスクも考えられることから、導入に反対する、又は慎重な検討を求める意見も出ているのが現状です。

さらに輸入事業者の観点で考えると、輸入品に伴う温室効果ガスの排出量の報告を求められるので、必然的に自身の事業活動を通した排出量を算出する必要が生じることも課題として挙げられます。

参考:経済産業省202204資料NRI記事20210707

 

さらなる拡大

そんな、課題点も残る国境炭素税ですが、制度のさらなる拡大も検討されています。

一つ目は課税の対象となる産業の拡大です。EUは現在、課税対象を「鉄鋼」「セメント」「肥料」「アルミニウム」「電力」の5品目としていますが、国境炭素税の導入に際して報告される排出量のデータを基に、範囲をさらに拡大し、より気候変動対策に貢献できる体制を検討しています。

そうなった場合、例えば現在の対象5品目について、日本はEU地域への輸出が少ないため、大きな影響は想定されていませんが、対象産業が拡大され、その中に該当品目があれば、日本も影響を受ける可能性も考えられます。

二つ目は課税の対象となるCO₂排出量の範囲の拡大です。CO₂排出量に関しては以下の様に、その事業活動についてのサプライチェーンを通した排出量を3種類に分類して考える、Scope1~3という捉え方があります。

Scope1(スコープ1):事業者自らの燃料の燃焼や工業プロセスに伴う排出(直接排出)

Scope2(スコープ2):他社から供給された電気・熱・蒸気などのエネルギー使用に伴う排出(間接排出)

Scope3(スコープ3):事業者の活動に関連するその他の排出(Scope1、2以外の間接排出)

 

現在EUで想定されている課税は、Scope1の直接排出のみですが、より気候変動対策を強めるために、将来的にはScope2の間接排出までに拡大することが考えられています。

 

参考:経済産業省202204資料グリラボ:CO2排出量の計算方法について解説!

 

まとめ

これまで見てきたように、国境炭素税とは気候変動対策の強度が異なる国の製品コスト水準を合わせるために、水際で炭素課税や還付を行う制度のことです。

温室効果ガス排出量の規制が緩い国に産業が移流してしまうカーボンリーケージ、またそれによって結果的に気候変動対策が正常に機能しない状態になってしまうことを防ぐのが目的です。

EUが先陣を切って導入を決定したこの国境炭素税ですが、その強引で一方的ともとれる内容から、貿易摩擦を生んでしまうのか、反対に各国に気候変動対策を促すきっかけとなるのか、気候変動対策の面からも、国際的な貿易の観点からも、今後の動向を注視していく必要があります。

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