炭素税とは?メリットやデメリット、日本での現状について簡単に解説!

地球温暖化対策の取り組みの1つとして注目されているのが、炭素税です。1990年にフィンランドが導入したことを皮切りに、欧州で導入する国が増え、二酸化炭素の排出量削減などに成功しています。

日本でも2021年頃から前向きな導入を検討する動きがみられ、近い将来、企業や個人に炭素税が課せられることになる可能性も。本記事では、炭素税のメリット・デメリットや、海外での導入事例、日本ではいつ頃導入されるのかについて解説します。今後の動向が気になる人は、ぜひ参考にしてください。

炭素税とは?

炭素税とは?メリットやデメリット、日本での現状について簡単に解説!

炭素税とは、二酸化炭素を排出する化石燃料や電気の使用量に応じて企業や個人に課せられる税金を指します。まだ日本では導入されていないため、聞き慣れない人も多いのではないでしょうか。

世界では地球温暖化にともない「二酸化炭素の排出量を減らそう」という動きが強まっています。その中の取り組みの1つとしてできたのが、課税という価格効果によって二酸化炭素排出量の削減を試みる「炭素税」です。世界では北欧でいち早く炭素税を採用し、2022年2月現在、二酸化炭素の削減をはじめとするさまざまな成果を出しています。

日本においてもすでに環境省で前向きな導入が検討されていることから、近い将来導入されると考えられます。その時になって慌てないよう、炭素税の知識を身につけ、事前にできることから準備を行っていきましょう。まずは炭素税を知るための2つのポイントを以下で紹介します。

炭素税はカーボンプライシングの手法の1つ

炭素税とは、カーボンプライシングの手法の1つです。カーボンプライシングとは、炭素に価格付けをすることで、二酸化炭素の排出を抑制しようという政策のこと。具体的には、二酸化炭素を排出する企業や個人などに、二酸化炭素の排出量に見合った金銭的な負担を求める政策を意味します。

カーボンプライシングには明示的なものと暗示的なものがあり、そのうち世界で積極的に採用されているのが明示的カーボンプライシングです。そして明示的カーボンプライシングの1つに、炭素税があります。

炭素税は温室効果ガスの排出量に応じて企業や個人に幅広く課税するものであり、現行の税制と親和性も高いことから、日本でも前向きな導入検討の段階に入っています。

ちなみに、明示的カーボンプライシングのもう1つは「排出量取引制度」と呼ばれるもの。企業などが、あらかじめ二酸化炭素の排出量を決めておく制度です。万が一上限を超えて二酸化炭素を排出した場合は、上限に達していない企業から二酸化炭素の排出枠を買い取る仕組みです。これもまだ日本では検討段階で、炭素税と同様に今後の動向に注目が集まっています。

日本がすでに取り入れている地球温暖化対策税との違い

日本がすでに取り入れている環境対策の一つに、「地球温暖化対策税」があります。これも炭素税の一種で、石油や天然ガスなどの化石燃料の利用に際して課税されるものです。地球温暖化対策税は2012年10月1日にスタートし、2022年2月現在、二酸化炭素の排出量1トンあたり289円になるよう税率が設定されています。

この日本で取り入れている地球温暖化対策税は、すでに本格的な炭素税が導入されている欧州に比べると10分の1に満たない低い税率であることが特徴です。環境省は今後、増税や新たな炭素税の導入は避けて通れないとして、具体的な政策を考える段階に入っています。

炭素税が必要な理由

炭素税の導入が世界で検討されるようになった背景に、地球温暖化問題があります。地球はこのまま進むと2100年には平均気温が5.8度上昇するといわれており、洪水、干ばつ、自然環境の破壊などさまざまな問題を招くとされているのが現状です。

そんな中、世界では地球温暖化を食い止めようとする動きがすでに始まっており、1997年の京都議定書、2015年のパリ協定で参加国はそれぞれ二酸化炭素の削減目標を決定しています。

日本はパリ協定において、2030年までに二酸化炭素の排出量を2013年比で26%削減することを目標に掲げました。炭素税を導入することで、企業や国民の意識を高めることが期待できます。二酸化炭素の排出量を減らすには、企業や国民1人1人が意識的に行動することが大切です。

参考:日本の排出削減目標|外務省

参考:温暖化防止のための環境税「炭素税」とは|環境・持続社会研究センター

炭素税の仕組み

炭素税について日本ではまだ検討段階のため具体的な仕組みは開示されていませんが、案として以下の4つの段階での課税が検討されています。

上流課税:化石燃料の採取時点、輸入時点で課税

中流課税:化石燃料製品や電気を、製造所から出荷する時点で課税

下流課税:化石燃料製品を工場、オフィス、家庭等へ供給する時点で課税

最下流課税:最終製品・サービスが最終消費者に供給される時点で課税

上記の中のどれか1つ、もしくは2つ以上のフェーズの組み合わせによって課税される予定です。それぞれにメリットや課題があるため、海外の事例も踏まえながら今後も慎重な議論を重ねていくべきでしょう。

参考:炭素税について|環境省

炭素税のメリットや期待できる効果

炭素税

地球温暖化対策として炭素税を導入するメリットや、期待できる効果を3つ紹介します。

地球温暖化防止に自然と動き出す流れが作り出せる

炭素税が導入されれば、二酸化炭素を排出する行動をするたびに、企業や個人に金銭的負担が増えることになります。

税金を課すことによって価格による効果を得られるだけでなく、環境問題を自分ごととして捉える企業や個人も増えるでしょう。このように、企業や消費者1人1人が、温室効果ガスをできるだけ排出しない流れを作りやすくなることがメリットです。

特に地球環境負荷への影響が大きい企業は、二酸化炭素を排出しない製品の開発や再生可能エネルギーの導入などに、これまで以上に取り組むようになるでしょう。

省エネ製品の普及につながる

エアコンなどの電化製品は年々省エネ性が増しており、多くの企業が環境への負荷を減らしながら快適に過ごせる製品の開発に取り組んでいます。しかし、いくら良い製品を作っても消費者が購入し使用しなければ地球温暖化の防止につなげることはできません。

炭素税を導入すれば、消費者の省エネ製品への買い替えを行う意欲促進にもつながるでしょう。環境への負荷が大きい企業はもちろんですが、温室効果ガスの大幅な削減を行うには国民1人1人が意識を変えていくことが大切です。消費者へのアプローチとしても、炭素税は大きな役割を果たすでしょう。

社会問題に対して使える財源が増える

炭素税を徴収することで、社会的・経済的な政策に使用する財源が増えるのもメリットと言えます。回収した税金は、地球温暖化対策をはじめとしたさまざまな政策に活用できることが特徴です。新エネルギーの開発費用に当てたり、省エネ製品の購入補助に当てたりすることも可能です。

また、社会保障や福祉など、社会問題の解決のために使用することもできるでしょう。実際に海外では、環境問題以外にも税収を有効に活用している事例があります。詳しくは後ほど紹介します。

炭素税のデメリットや弊害

炭素税にはメリットもありますが、現状考えられるデメリットもいくつかあります。具体的に2つ紹介します。

企業の成長を妨げる恐れがある

炭素税は、二酸化炭素の排出量が多くなりがちな鉄鋼業界や化学業界の企業に大きなダメージを与える心配があります。化石燃料を輸入に頼っている日本では、ただでさえエネルギーコストが多くかかりがちです。

そこに炭素税が上乗せされることで、更なるコストの上昇につながります。炭素税の導入は、日本のものづくりを支える企業の成長を妨げる要因にもなりかねないことから、導入に踏み込みにくいという議論も実際に行われているようです。

また、炭素税を導入していない国に対して価格的ハンデを負ってしまうため、国際的な競争力の低下にもつながります。環境のことを真面目に考える国ほど損をしてしまう構造が成り立ってしまうのは、炭素税のデメリットといえるでしょう。

低所得者の税負担が増える

生活必需品への支出割合が多い低所得者層ほど、炭素税の負担は大きくなりがちです。消費税と同じようにどの消費者にも一定に課される炭素税は、所得の低い家庭や大家族などの家計を圧迫しやすく、何かしらのフォローが必要となるでしょう。

現状では、炭素税の税収を再配分するなどの対策が考えられています。

諸外国における炭素税の取り組みを紹介

実際に炭素税を導入している国の取り組みや、政策の特徴などを紹介します。

フィンランド:1990年に導入

1990年に炭素税をいち早く取り入れたのが、フィンランドです。課税対象となっているのは暖房用燃料と輸送用燃料消費の2つで、2017年時点では一律1トンあたり7,880円の税率を採用しています。

フィンランドでは、所得税の引き下げや企業の社会保障費削減によって減った税収の一部を補填することを目的としており、実際に1997年と2011年の税収改革で補填されています。税収額は、2016年時点で日本円にして1,702億円。1990年〜2015年までの25年間で、22%の二酸化炭素削減に成功しています。

スウェーデン:1991年に導入

フィンランドに続いて炭素税を導入したのがスウェーデンで、フィンランドと同じく暖房用化石燃料と輸送用化石燃料の消費に対して課税を行っています。税率は2017年時点で一律1トンあたり15,130円です。2022年現在、世界でも最高水準の税率を採用しています。

スウェーデンでは、炭素税導入と同時に法人税の大幅な減税を行うことで、企業への負担を軽減しています。また、2001年から2004年の税率引き上げ時には、低所得者の所得税率を引き下げるなどの措置も行いました。税収額は、2017年時点で3,237億円。1990年〜2015年の25年間でみると、29%の二酸化炭素排出量削減に成功しています。

デンマーク:1992年に導入

1992年に、石炭、石油、ガスなどの化石燃料と廃棄物の消費に対し課税がスタートしたデンマーク。導入当初は産業や工業用に対して大幅な軽減税率を適用していましたが、2010年に税率の一本化を行っています。

税率はインフレ率に応じて毎年自動的に設定される仕組みで、2016年の税収は608億円でした。1990年〜2015年までの25年間でみると二酸化炭素排出量は37%減となっており、欧州諸国の中でも特に顕著な実績を見せています。

アイルランド:2010年に導入

2010年のリーマンショックによる経済危機からの脱却を試み、税収確保のために炭素税を導入したのがアイルランドです。石油や天然ガスを対象とし、2013年には石炭への課税もプラスされました。

地球温暖化問題への取り組みを主体としていないため、二酸化炭素排出量削減には至っていませんが、財政の健全化の面で大きく貢献しています。2016年の税収は547億円でした。

参考:諸外国における炭素税等の導入状況|環境省

日本での炭素税導入はいつ?いま議論されていること

一部報道によると、日本では2021年3月に本格導入に向けた取り組みを開始したとされています。2022年2月現在、具体的なスタート時期については発表されていませんが、そう遠くない未来に炭素税を導入する運びとなるでしょう。

炭素税を導入する際の課題となっている、エネルギーコストの増加による企業への負担、国民への説明などが、今後の議論の中心となりそうです。

海外の事例でもあったように、炭素税は二酸化炭素の排出を抑えるだけでなく、社会問題や福祉などに税収を活用することもできます。

また、省エネ製品の普及が広まることで、長期的な経済成長も期待できます。メリットとデメリットを踏まえたうえで、今後の日本の炭素税導入に関する動向に注目しましょう。

IGSでも脱炭素への取り組みを強化中

炭素税の概要と、世界の導入事例をいくつか紹介しました。今後地球温暖化がさらに進む中で、企業や個人が意識を高く持って行動するには、炭素税をはじめとするカーボンプライシングが有効です。

炭素税は日本でも本格的な検討段階に入っているため、近い将来導入されることになるでしょう。ものづくりを支える企業の人も一般の人も、炭素税の導入に向けてできることから準備しておくことをおすすめします。

IGSでは、脱炭素社会の実現を目指す「CO2ゼロアクションプロジェクト」を行っています。グリラボでは賛同企業様の導入事例を紹介しておりますので、興味のある方はぜひチェックしてみてくださいね。

 

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