気候変動で私たちに起きる健康リスクとは?

気候変動は森林破壊や海面上昇などの環境問題として捉えられるのが一般的です。しかし、実は気候変動は、人間の健康問題ともダイレクトにつながっています。

そこで今回は、気候変動によって引き起こされる健康リスクの概略を解説した後、将来大きな影響が予想されている5つの具体的な健康リスクを紹介します。自分や家族の健康を守るためにも、またよりよい社会貢献を考えるうえでも、気候変動と健康リスクの関係を知っておきましょう。

気候変動の現状

気候変動の現状は、とても深刻です。世界の平均気温は、18世紀後半の産業革命時に比べて、2011~2020年の間で1.09℃上昇しました。これがいかに急激な温暖化なのかは、JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)が2021年のIPCC第6次評価報告書をもとにまとめた、次のグラフをみるとよくわかります。

引用:JCCCA|温暖化とは?地球温暖化の原因と予測

急激な温暖化の主な原因は、二酸化炭素(CO2)濃度の上昇です。温室効果ガスの種類はいろいろありますが、CO2は全体の76%(2010年時点)と大きな割合を占めています。産業活動が活発になってCO2を大量排出したことで、産業革命以前と比べると、実に40%も濃度が増しているのです。

気候変動により想定される影響の概略図

気候変動が進むと、人間の健康にも悪影響を与えます。以下の図は、環境省の「気候変動影響評価報告書(総説)」に掲載されている気候変動と健康リスクについての概略図です。

引用:気候変動影響評価報告書 総説|環境省

内容をおおまかにまとめると、気候変動は3つの健康リスクをもたらします。第一に、温度上昇によって熱中症や睡眠不足などのリスクが高まります。第二に温暖・熱帯地帯に限られていた感染症が世界的にまん延するリスクです。第三に海面上昇や異常気象によって自然災害が起こって生活環境が悪くなり、健康に悪影響を与えるリスクです。

将来、気候変動で予測される影響


それでは、気候変動が引き起こす健康リスクを具体的にみていきましょう。問題意識を持ちやすいように、国内の身近なケースを中心に取り上げます。

熱ストレスによる死亡者数増加

熱ストレスとは、生理的な障害が起こり得る温度のことで、35度以上かつ多湿の環境が目安です。熱ストレスがかかると、熱中症になったり持病が悪化したりして死に至る可能性があります。

この熱ストレスによる超過死亡数(例年の死亡者数を超過した死亡者数)は、増加傾向にあります。東京大学の橋爪教授による研究によると、今後対策をとらないのであれば、今世紀半ばから今世紀末までにすべての都道府県で、暑熱による超過死亡数が2倍以上になるだろうということです(※1)。

さらに、極端な気温差によって寿命が縮まっているとする研究結果(※2)もあります。特に体力のない高齢者や、持病を抱える人などにおいては健康リスクが高いといえるでしょう。この点、超高齢化社会の日本は、熱ストレスによる死亡者が増えやすい状況です。

※1出典:公衆衛生分野における気候変動の影響と適応策|国立保健医療課学院
※2参考:Cold- and heat-related mortality: a cautionary note on current damage functions with net benefits from climate change|Springer Link

熱中症の発生件数の増加

熱ストレスの健康リスクの代表格が熱中症です。熱中症の死亡者数は、すでに大幅に伸びています。熱中症厚生労働省の「熱中症とは何か」によると、1993年以前の年平均は67人でしたが、1994年以降は年平均667人に増加しています(※)。

以下のグラフは、同資料に掲載されている年ごとの死亡者数の推移です。年によってバラツキはありますが、右肩上りに増えていることがわかります。

※出典:熱中症とは何か|厚生労働省

将来的には、屋外の活動時間が減少するかもしれません。特に運動中に熱中症にかかりやすい10代や、作業中に熱中症にかかっている割合が多い成年男性は、活動が制限されるでしょう。

蚊やダニによる感染症の流行

気温上昇によって、感染症が流行しやすくなると予想されています。冬の最低気温が上がって蚊が越冬したり、夏の最高気温が上がって自然宿主(寄生体と共生している生物)の生存圏が広がったりするためです。

温暖化によってリスクが高まる感染症は次のとおりです。

感染経路 感染症
ノミ、ダニ、蚊、げっ歯類、巻き貝 日本脳炎、マラリア、デング熱、ウエストナイル熱、リフトバレー熱、ダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス肺症候群、ペスト、日本住血吸虫
水系汚染、土壌汚染 コレラなどの下痢症

出典:地球温暖化と感染症 いま何がわかっているのか?|環境省

このように気候変動によって感染症リスクが高まっています。例えば、関東圏でしか発生しなかったデング熱が東北圏まで広がっており、将来的には北海道まで広がるだろうと予測されています。

低所得者などへの不平等な影響

気候変動による健康リスクは、低所得者、高齢者、小児などの弱者ほど高い傾向にあります。海外では生活環境が悪いスラムのなかで、感染症や熱中症にかかる人が増えています。また、熱ストレスによる死亡者の割合は高齢者が多いですし、デリケートな小児がマラリア、下痢症にかかるケースが増えました。

こうした不平等は社会が是正しなければならない、という考えが広がっています。例えば、SDGsの取り組みにおいて、発展途上国に気候変動に備える費用を支援をするなど、対策が急がれています。

その他の被害や影響

最後に、気候変動による連鎖的な健康リスクを2つ紹介します。

1つめは自然災害後に引き起こされる健康リスクです。気温が上昇すると大雨や台風などの大規模な災害が発生しやすくなります。この際、過酷な体験や長期の避難生活によるトラウマ・PTSDのようなメンタルヘルス不調に陥ることがあり、重大な健康被害の1つになっています。

2つめは温暖化と大気汚染の複合的な影響です。例えば、日本では気温上昇によって光化学オキシダント濃度が高くなり、光化学スモッグが発生しやすくなっています。これによって脳血管疾患・心血管疾患、呼吸器系疾患、循環器系疾患にかかるリスクが高まっています。

まとめ


CO2濃度上昇による気候変動は、すでに人間の健康リスクを高めています。CO2削減による地球保護も大切ですが、今そこにある健康リスクにも対処していきたいものです。暑い日に屋外で過ごす時間を減らしたり、衛生習慣を強化したりするなど、個人でもできる対策もあります。

グリラボではCO2削減、再エネ活用など、地球と社会と人の未来をつなぐことをテーマに、エネルギーの未来について研究し発信しています。他のコンテンツもぜひ併せてご覧ください。

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