中小企業の脱炭素化に向けた取り組みについてわかりやすく解説
脱炭素社会に向けた社会的機運が高まり、今や大企業だけでなく中小企業にも脱炭素経営に対する取り組みが求められるようになっています。とはいえ「具体的になにをすればいいのかわからない」という企業も少なくないでしょう。
今回は、中小企業が脱炭素経営に取り組む際の手順やメリット、実際の企業事例などを紹介します。
脱炭素経営とは?
脱炭素経営とは、気候変動対策の視点を織り込み、地球温暖化の主な原因である二酸化炭素の排出ゼロを目指す企業経営です。
従来、企業の気候変動対策というと、あくまでCSR活動の一環として行われることが一般的でした。しかし、近年では地球温暖化をはじめとする環境問題への社会的危機感が増したこともあり、企業にとって気候変動対策は経営上の重要課題となりつつあります。そのため、全社を挙げて脱炭素経営に取り組む企業が増加しているのです。
脱炭素経営を行うべき背景
自然災害による被害の発生頻度は年々増加しており、気候変動が企業の持続可能性を脅かすリスクとなりつつあります。そのため、脱炭素化によってリスク回避や機会獲得を目指す動きがビジネスにおける潮流となっています。これらの背景について、詳しく解説します。
気候変動リスク
1つ目の背景として、気候変動による経営リスクへの備えがあげられます。
例えば、2011年に発生したタイの大洪水では、多くの日本企業が生産拠点の長期浸水、サプライチェーン寸断などの被害を受けました。国内でも、2018年度に西日本豪雨などの自然災害が頻発したことで、損害保険会社における自然災害の保険金支払額は過去最高を記録しています。
このような気候変動リスクを回避するため、脱炭素経営の重要性が高まっているのです。
気候関連機会
気候変動に対する危機感の高まりをビジネスチャンスととらえ、新事業を生み出している企業もあります。
例えば、大手ハウスメーカーでは、快適な暮らしだけでなく、エネルギーや防災等の社会課題を解決することをミッションに、エネルギー収支がゼロになる「ZEH住宅」の標準化を促進しています。また、大手エネルギー企業は、再生可能エネルギーの台頭とコスト低下、金融機関の化石燃料関係に対する融資の厳格化を踏まえ、火力燃料の割合を縮小し、再生エネルギー部門の拡大を図っています。
脱炭素経営を行うメリット
企業が脱炭素経営に取り組むメリットとして、次の5つがあげられます。
- 優位性の構築
- 光熱費・燃料費の低減
- 知名度や認知度の向上
- 社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化
- 新たな機会の創出に向けた資金調達において有利に働く
それぞれについて、詳しく解説していきます。
優位性の構築
環境意識の高い企業を中心に、サプライヤーに対しても排出量の削減を求める傾向が強まりつつあります。脱炭素経営の実践は、このような大手企業に対する訴求力の向上につながります。
例えば、 多国籍テクノロジー企業であるAppleでは、サプライヤーに対して再エネ電力の使用を求めており、Apple向けの生産を担っている国内企業では再エネ調達が進められています。脱炭素経営に取り組んで再エネ調達が済んでいることをアピールできれば、これらの企業に対する訴求力向上が期待できるのです。
光熱費・燃料費の低減
脱炭素経営を推進するには、エネルギーを多く消費する非効率なプロセスや設備の見直しを進めていく必要があり、結果的に光熱費や燃料費の低減につながります。
再エネ電力の調達は、一般的に高額な費用がかかるイメージがあるかもしれませんが、近年では大きな費用負担なく導入することが可能です。そのため、長期的にはコスト削減を実現する企業が多くなっています。
知名度や認知度の向上
3つ目のメリットとして、自社の知名度や認知度の向上があげられます。省エネに取り組み、大幅な温室効果ガス排出量の削減を達成した企業や、再エネ導入を先駆的に進めた企業は、メディアへの掲載や国・自治体からの表彰対象となる可能性が高まります。その結果、世間の注目を集める機会が増えるのです。
また、 省エネ対策によるコスト削減で自社製品の大量生産・拡販が可能になり、顧客層への浸透につながるという副次効果も期待できます。
社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化
脱炭素の要請に対応することで、社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化になるというメリットもあります。「気候変動などの社会課題を解決したい」という前向きな姿勢が社員の共感や信頼を獲得すれば、仕事に対するモチベーションアップが期待できます。
また、気候変動問題に対して高い関心を持つ人材からの共感や評価が得られ「この会社で働きたい」と思ってもらえれば、採用活動でもプラスの影響がもたらされます。
新たな機会の創出に向けた資金調達において有利に働く
脱炭素に向けた取り組みは、資金調達の面でも有利に働きます。前述でも触れた通り、近年は金融機関から脱炭素化に向けた企業への圧力が高まりつつあり、融資先の選定基準には地球温暖化への取組状況が加味されるのです。
中には、温室効果ガスの削減量や再エネの生産量などの目標達成度に応じて貸出金利が変動する「サステナビリティ・リンク・ローン」を開始している銀行もあります。
脱炭素経営を行うための考え方
脱炭素経営に取り組む際には、生産プロセスや設備をはじめとするエネルギーの使い方を根本から振り返る必要があります。 2015年に環境省が公表した「温室効果ガス削減中長期ビジョン検討会 とりまとめ」においては、温室効果ガス大幅削減の方向性として、以下の3 点が挙げられています。
- 可能な限り、エネルギー消費量を削減する(省エネを進める)
例)高効率の照明・空調・熱源機器の利用など - エネルギーの低炭素化を進める
例)太陽光・風力・バイオマス等の再エネ発電設備の利用、CCS7付き火力発電の利用、 太陽熱温水器・バイオマスボイラーの利用など - 電化を促進する(熱より電力の方が低炭素化しやすいため)
例)電気自動車の利用、暖房・給湯のヒートポンプ利用など
脱炭素化を図っていく上では、まず「3.長期的なエネルギー転換」を検討し、その上で「1.省エネ対策」や「2.再生可能エネルギーの導入」を併せて検討することが重要です。
脱炭素化に向けた計画策定の検討手順
前章で紹介した温室効果ガス大幅削減3つの方向性を具体的な計画に落とし込むためには、以下4つのステップで検討を進めます。
- 長期的なエネルギー転換の方針を検討
- 短中期的な省エネ対策の洗い出し
- 再生可能エネルギー電気の調達手段の検討
- 削減対策の精査と計画へのとりまとめ
それぞれ、詳しく解説します。
長期的なエネルギー転換の方針の検討
燃料消費に伴う温室効果ガス排出量を、省エネ対策のみで大幅に削減することは困難であり、温室効果ガスの排出量がゼロもしくは少量のエネルギーに転換していくことが必要です。そのため、脱炭素経営の検討に際しては、将来の技術開発動向も見据えつつ、主要設備のエネルギー転換について検討しなくてはなりません。
具体的なエネルギー転換の施策としては、以下が挙げられます。
電化の可能性を探る場合、エネルギーの種類が変わるだけでなく、省エネにも寄与するケースが少なくありません。ただし、技術開発の進捗状況や導入コスト、関連インフラの普及状況などによってはエネルギー転換が難しい場合も想定されますので、段階的な転換も検討してみましょう。例えば、ガソリン自動車から電気自動車への転換が当面難しい場合には、当面の対策としてハイブリッド自動車を導入することも一案です。
短中期的な省エネ対策の洗い出し
前のステップで検討したエネルギー転換の方針を前提に、短中期的な省エネ対策を検討します。エネルギー転換の内容や時期を踏まえながら、既存設備の稼働最適化やエネルギーロスの低減を図ります。具体的な省エネ対策としては、以下が挙げられます。
ここまででの検討が完了したら、温室効果ガスの削減量を概算してみましょう。削減目標に届かない場合には、自社の消費電力を再エネに切り替えるなどの追加施策が必要です。
再生可能エネルギー電気の調達手段の検討
再生可能エネルギー電気は、CO2排出量がゼロの代表的・汎用的なエネルギーです。最初のステップで検討した電気と組み合わせることで、大幅なCO2削減が期待できます。
また、前ステップまでの検討の結果、自社の排出量が削減目標に届かない場合には、電気を再エネに切り替える追加施策の検討が必要です。 再エネ電気の調達方法は、一般的に以下の通り整理されます。
調達手段は、必要とする再エネ電気の調達量や施設の立地状況、自社におけるレジリエンス電源の必要性などを考慮し、選択・組み合わせることが大切です。
削減対策の精査と計画へのとりまとめ
ここまでの検討結果をとりまとめたら、洗い出した削減対策について以下の点を定量的に整理します。
- 想定される温室効果ガス削減量(t-CO2/年)
- 想定される投資金額(円)
- 想定される光熱費・燃料費の増減(円/年)
さらに、可能な範囲で各削減対策の実施時期を決めた上で削減計画に整理し、削減対策の実施による効果・影響として次の2点をとりまとめます。
- 各年の温室効果ガス排出削減量
- 各年のキャッシュフローへの影響
削減計画は、以下のような表で取りまとめるといいでしょう。
引用:中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック -温室効果ガス削減目標を達成するために-
計画の策定が完了したら、さらに以下の観点で計画を精査します。
- 洗い出した削減対策によって目標達成は可能か
- 温室効果ガス排出削減に係る追加的な費用支出を許容できるか
- 削減対策の実現に向けた詳細検討をどのように進めるか
脱炭素経営の取り組み・事例紹介
実際に脱炭素経営に取り組み、プラスの効果を得られている企業事例として、次の3社を紹介します。
- 株式会社大川印刷
- 山形精密鋳造株式会社
- 中部産商株式会社
株式会社大川印刷
株式会社大川印刷は、1881年に創業した印刷会社で、本業を通じた社会課題解決を実践する「ソーシャルプリンティングカンパニー®」を標榜しています。具体的な取り組みは、次の通りです。
- LED UV 印刷機への切り替え
- 自社の工場屋根に第三者所有モデルで太陽光発電設備を設置
- 風力発電による電力(FIT利用)を購入
- サプライチェーンに向けたセミナー開催
これらの施策により、エネルギーコストの削減と売上増を同時達成しただけでなく、職場環境が改善し、従業員の働きやすさ向上にもつながっているといいます。
山形精密鋳造株式会社
山形精密鋳造株式会社は精度の高い鋳造技術により大量生産・低コストの鋳物が製造できる点を強みとしており、国内自動車メーカー全社に納品実績がある企業です。同社は、いずれサプライチェーン全体での環境取組が求められる時代になると見通し、以下の取り組みを実施しました。
- 主要な設備の電力使用状況を把握
- インバータ付きコン プレッサー、高効率貫流ボイラー、LED照明の導入
また、補助金や省エネ診断といった国・自治体の支援制度を積極的に活用した点もポイントです。中小企業でも補助事業を活用すれば、着実な取り組みが可能であるとわかる事例といえます。
中部産商株式会社
中部産商株式会社は、鋳造用耐火物の製造・販売を手掛ける企業で、国内だけでなく中国・ベトナム・タイなどへの輸出も行っています。鋳造用耐火物の製造は多くのエネルギーを消費することから、以下のような取り組みを行いました。
- トンネル炉に流量計し、運用を最適化
- 製品種類ごとに焼成温度を調節
- 遠赤外線による電気乾燥への切り替え
- 照明のLED化
これらの取り組みが、約1,000万円の光熱費を削減、知名度の向上、 競争力強化などの効果を生み出したそうです。
まとめ
環境に対する企業の取り組みは年々重要性を増していますが「大企業のような取り組みは難しい」と考えている経営者や担当者も多いかもしれません。しかし、国や自治体の支援制度を活用し、自社でできる施策を整理すれば、中小企業でも着実に成果をあげられます。ご紹介した検討手順や事例を参考に、脱炭素経営に向けた検討を進めてみてはいかがでしょうか。
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