排出量取引(排出権取引)制度とは?メリットなどをわかりやすく解説

排出量取引(排出権取引)制度とは、企業ごとのCO2排出量に「枠」を設け、その排出枠の過不足を企業間で取引できる仕組みです。2050年のカーボンニュートラル実現を見据えた取り組みの一つであるため、脱炭素に関わる企業の担当者の方はぜひ把握しておきたい制度といえるでしょう。

本記事では排出量取引(排出権取引)制度の概要や日本における現状、メリット・デメリットなどを紹介します。当制度について知識を深めたい方は参考にしてみてください。

排出量取引(排出権取引)制度とは?

排出量取引制度とは、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量を削減するための手法で、企業間における排出量の過不足を取引する仕組みです。「排出権取引」とも呼ばれます。排出量取引制度には「キャップ・アンド・トレード方式」と「ベースライン・アンド・クレジット方式」の2つがありますが、本記事では日本政府が検討を進めている「キャップ・アンド・トレード方式」について解説します。

キャップ・アンド・トレード方式は企業ごとに排出枠(温室効果ガス排出量の限度=キャップ)を設定し、排出枠を超過する企業と下回る企業間で排出量を売買するものです。これは炭素に価格をつけて排出者の行動を変容させる手法である「カーボンプライシング」の一つです。

排出量取引制度の日本の現状

現在、日本では国全体としての排出量取引制度は実施されていません。日本政府は2026年度の本格稼働に向けて準備を進めている段階です。その一環として、日本取引所グループ(JPX)は東京証券取引所に「カーボン・クレジット市場」を設けて、2023年中の稼働を目指しています。

一方で、東京都や埼玉県など独自に排出量取引を始めている自治体は出てきています。これらの自治体の排出量取引については、のちほど紹介します。

排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード方式)の仕組みと流れ

ここではキャップ・アンド・トレード方式における排出量取引制度の仕組みと流れを解説します。

  • CO2削減量の決定と排出枠の発行
  • 各企業に排出枠を分配する
  • 排出枠内にCO2排出量を収める
  • 排出枠を超える場合他社から購入する
  • 排出枠と排出量を確認する(マッチング)

CO2削減量の決定と排出枠の発行

排出量取引制度では、まず国や部門が温室効果ガスの削減目標を定めます。そして、それに応じた全体の排出枠が発行される仕組みです。例えば2022年に「2017年のCO2排出量を基準として15%削減する」という目標を定めた場合、その国や部門に対して2017年のCO2排出量の85%が「排出枠」として割り当てられます。

各企業に排出枠を分配する

国や部門全体の排出枠が決まったら、各企業に排出枠が分配されます。代表的な分配方法には以下の3つがあります。

排出枠の分配方法 概要
無償割当 ベンチマーク方式 業種・製品に係る望ましい排出原単位(生産量当たりのCO2排出量:ベンチマーク)を設定し、これに生産量を乗じて排出枠を設定
グランドファザリング方式 過去の排出実績に応じて排出枠を設定
有償割当 オークション方式 排出枠を競売によって配分

ベンチマーク方式は過去の削減努力が反映されるため、公平性が高められる分配方法です。ただし、対象となる全ての業種・部門でベンチマークを設定することは難しいという問題点もあります。

グランドファザリング方式は過去の実績排出量に基づいて配分されるため、ベンチマークの設定は必要ありません。一方で過去の削減努力に差がある企業に同じ量の排出枠が割り当てられる可能性があるため、公平性の観点ではベンチマーク方式に劣ります。

オークション方式は入札によってその企業に必要と見込まれる排出枠を購入します。そのため、この方式のみ有償での配分となります。

排出枠内にCO2排出量を収める

排出枠が分配されたら、各企業や事業所は割り当てられた排出枠内にCO2排出量が収まるよう、取り組みを行います。その取り組みの中で、CO2排出量がうまく抑えられて排出枠に余裕が出てくる企業もあれば、思うように排出量が抑えられず排出枠を超えてしまう企業が出てくることも予想されます。

排出枠を超える場合他社から購入する

割り当てられた排出枠を超えてしまう企業や事業所は、CO2排出量の削減義務を果たすために「自社努力でCO2を削減する」ほか、「他社や他部門から余った排出枠を購入する」という方法も選択できます。どちらの方法を選ぶかは、コストによるでしょう。自社でCO2削減を試みるより、排出枠を購入するほうが安ければ、その方法が削減義務を果たすためにより効率的な方法として選択されることが予想されます。

排出枠と排出量を確認する(マッチング)

最後に、各企業や事務所に割り当てられた排出枠と、実際のCO2排出量が合致していることを確認します。この確認作業をマッチングと言います。マッチングにより、実際のCO2排出量が排出枠内に収まっていれば、排出量取引制度のルールを守ったことになります。

もし排出枠を超えてしまった企業や事務所には罰則が課されることになります。

排出量取引制度のメリット

排出量取引制度には主に以下3つのメリットがあります。詳しく見ていきましょう。

  • 達成される目標が明確である
  • 温室効果ガスの削減費用を少なくできる
  • 企業のCO2削減手段が多様化される

達成される目標が明確である

排出量取引制度は、達成すべき目標が明確であるといったメリットがあります。国や部門全体が立てた全体の削減目標に基づいて、各企業や事業所に対して排出枠が配分されます。各企業や事業所に排出量の上限が定められているため、達成すべき目標がはっきりしています。目標が数値化されているので、各企業や事業所は目標達成に向けたアクションを取りやすいでしょう。

温室効果ガスの削減費用を少なくできる

排出量取引制度では、排出枠を超えてしまった場合の対処方法として、「自社努力によるCO2削減」または「他の企業や事業所からの排出枠の購入」を選択できます。企業の業種や形態によってより低コストな選択肢を選べるので、温室効果ガスの削減費用を少なくできる可能性があるのです。

4-3.企業のCO2削減手段が多様化される

前述のとおり、排出量取引制度では、自社努力によってCO2排出量を削減するだけではなく、排出枠が余っている企業や事業所から排出枠を購入することが認められています。CO2の削減手段を選択できるため、景気動向などに応じてより効率的な方法を選べるのは企業にとってのメリットと言えるでしょう。

排出量取引制度のデメリット

一方で、排出量取引制度には以下のようなデメリットもあります。

  • カーボンリーケージの問題
  • 排出枠の設定が難しい
  • 低炭素技術の阻害リスクがある

カーボンリーケージの問題

カーボンリーケージ(CO2漏出問題)とは、国際競争の激しい産業の企業が温室効果ガスの排出規制が緩い国に移転してしまうことです。排出量取引制度が本格的に導入されることによりカーボンリーケージが起こると、移転先の国のCO2排出量が増え、結果的に地球全体のCO2排出量が増えてしまうことが懸念されています。

EUではすでにカーボンリーケージの対策が行われており、カーボンリーケージのリスクが高い産業などに対して排出枠を多めに配分する取り組みが行われています。

排出枠の設定が難しい

排出量取引制度は、排出枠の設定が難しいこともデメリットの1つです。排出枠を厳しくすると各企業・事業所のCO2削減のための費用負担が増すことが予想されます。反対に排出枠を甘くすると、全く自助努力をしなくとも排出枠を購入するだけで目標を達成する企業が出てくるという問題も懸念されます。

このような理由から適切な排出枠の設定が非常に難しいとされているのです。

低炭素技術の阻害リスクがある

排出量取引制度には、長期的には低炭素技術の阻害となるリスクもあります。排出枠の購入を選択できることは、短期的にはCO2目標達成のための効率的な手段といえますが、低炭素技術の導入やイノベーションに投資する原資が流出するため、長期的に見ると低炭素技術の阻害リスクとなる可能性があります。

排出量取引制度の日本の事例

日本国内では、すでに排出量取引制度を導入している自治体もあります。ここでは東京都と埼玉県の導入事例を紹介します。

総量削減義務と排出量取引制度(東京都)

東京都は2010年4月より「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」を導入しています。この制度はEUなどで導入が進んでいる「キャップ・アンド・トレード方式」を国内で初めて実現したものです。オフィスビル等も対象とする世界初の都市型のキャップ・アンド・トレード制度として、現在は第三計画期間(2020〜2024年度)が継続中です。

目標設定型排出量取引制度(埼玉県)

埼玉県の「目標設定型排出量取引制度」は、CO2の多量排出を行う大規模な事業所を対象とした制度で、2011年4月より導入されています。埼玉県がパネラーとして参加した、世界銀行主催の気候変動対策をテーマとする国際会議「Innovate 4 Climate」で本制度の取り組みが発表されました。

埼玉県と東京都は2010年9月に「キャップ&トレード制度の首都圏への波及に向けた東京都と埼玉県の連携に関する協定」を結んでおり、相互の排出量取引制度を利用(一部制限あり)できる仕組みとなっています。

まとめ

排出量取引(排出権取引)制度は、各企業や事業所に割り当てられた「排出枠」を売買することで温室効果ガスの削減目標を達成するための仕組みです。現在、日本では国全体として排出量取引制度は導入されていないものの、東京都や埼玉県では独自に取り組みを始めています。国としても2026年度の本格導入を目指しているため、脱炭素に関わる企業の担当者は制度の概要や動向を押さえておくことをおすすめします。

温室効果ガスの排出量の削減にお困りの方は株式会社アイ・グリッド・ソリューションズへご相談ください。


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