EVトラックの普及率が悪いのはなぜ?課題や今後について解説

 

EVトラックは、CO2排出量の削減や環境負荷の軽減に期待される次世代のトラックですが、普及率は低迷しています。普及率が悪い理由には、どのようなことがあるのか気になっている人もいるのではないでしょうか。

本記事では、EVトラックの現状や普及率が悪い原因、各社の取り組みなどを紹介します。物流業界に従事している人や、環境問題に興味のある人はぜひ参考にしてください。

EVトラックの導入台数は世界でたった450台程度しかない

三菱ふそうトラック・バスの発表によると、2022年9月までの5年間に世界で導入されたEVトラックは、わずか450台程度にとどまっているのが現状です。売れ行きの鈍さは、日本だけでなく海外でも同様に見られます。

地球温暖化による影響が深刻化する今、環境問題への意識は高まりつつあります。しかし、EVトラックの購入価格は高く寿命も短いため、初期費用とランニングコストの双方で大きな負担がかかることから、なかなか普及が進みません。

EVトラックを導入しても利益につながりにくいため、環境問題に対して意識の高い大手企業以外には、EVトラックを購入する余裕のある企業は少ないのが現状です。

EVトラックの主なメーカー

EVトラックを開発する主なメーカーは、以下の6つです。

・いすゞ自動車

・日野自動車

・三菱ふそうトラック・バス

・ボルボ

・リヴィアン

・テスラ

中でも、いすゞ自動車はEVトラックの開発に積極的なメーカーで、日本のEVトラック業界をけん引する存在として注目されています。いすゞ自動車が主力とする2〜3トンクラスの小型EVトラック「エルフ」は、運転席と荷台を行き来できるウォークスルー形式を採用しており、荷物の積み下ろし作業の効率化を図れる点が特徴です。

日野自動車が2022年に発売したのは、ラストワンマイル向けの小型トラック「デュトロ Z EV」です。荷台の床面を低く設定することで、ドライバーが荷台に直接乗り降りできるようにしました。荷物の出し入れがスムーズになることで作業効率が向上し、ドライバーの負担も軽減されます。

このように、EVトラックは環境への配慮だけでなく、設備にもこだわっている傾向にあります。

EVトラックがなかなか普及しないのはなぜ?課題を解説

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カーボンニュートラルの達成に向けてEVトラックの普及が求められているものの、なかなか普及しない現状にはいくつか理由があります。

航続距離が短く長距離輸送が難しい

EVトラックが抱える課題の1つは、航続距離が短く長距離輸送が難しいことです。トラックは一般の車よりも走行距離が長く、1日で1000km以上走る場合もあるため長い航続距離が求められます。

EVトラックにはバッテリーを積みますが、航続距離を長くしようとするとその分バッテリーも大容量にする必要があります。バッテリーは大きくすればするほど燃費や積載可能量が悪くなるため、なかなか容量を増やせないのが現状です。

現在販売されているEVトラックの航続距離は最長でも400kmほどであり、これでは長距離輸送には十分対応できません。

充電に長い時間がかかる

EVトラックが抱える課題には、充電時間の長さも挙げられます。バッテリー容量が大きいため、充電するのに1時間以上必要になるケースがほとんどです。

一方でガソリン車の給油時間はせいぜい数分程度なので、EVトラックにすることで稼働できない時間を増やしてしまいます。トラックを動かせない時間が増えれば増えるほど収益の悪化に直結するため、運送業者にとっては深刻な問題です。

また、充電時間の短縮に加えて、充電施設の整備も重要です。充電施設が十分に整備されていないと、充電場所を探すのに手間と時間がかかるため、稼働効率が低下します。

販売価格が高く導入コストがかかる

販売価格の高さも、EVトラックの普及を阻む大きな要因の1つです。EVトラックのバッテリーを生産するコストが高いことから、販売価格もガソリン車やディーゼル車に比べて倍以上になることがあります。

政府や自治体は、EVトラックの普及を促進するために、補助金などの施策を実施しています。しかし、補助金だけでは十分とは言えず、ガソリン車やディーゼル車のほうが安いことには変わりないため、導入できる企業を大きく増やすことは難しいでしょう。

バッテリーは劣化するため寿命が短い

バッテリーは充電を繰り返すと性能が低下していくため、寿命が短いのも難点です。EVトラックのバッテリーは、ガソリン車のエンジンと同じく、劣化すると車そのものの寿命が縮んでいきます。

トラックは長距離走行が基本であるため、その分バッテリーの充電頻度も上がります。バッテリーは充電頻度が高ければ高いほど劣化しやすく、寿命が短くなることは現状避けられません。導入費用も高く寿命も短いとなれば、よほどコストに余裕がなければ導入は難しいと考えられます。

EVトラックにはメリットもある?

EVトラックにはデメリットが多いものの、メリットも存在します。以下で主なメリットの詳細を確認してみましょう。

最大のメリットは二酸化炭素排出量の削減

EVトラック最大のメリットは、二酸化炭素排出量が削減できる点です。

ガソリン車は、走行時にエンジンで燃料を燃やして動くため、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出します。一方EVトラックは、電気モーターを使って動くため、走行時に温室効果ガスを排出しません。EVトラックに切り替えれば、物流業界からの温室効果ガス排出量を大幅に削減できます。

日本の運輸部門からの二酸化炭素排出量は、2020年度で1億8,500万トンと全体の17.7%を占めています。産業部門に次いで2番目に大きい割合であるため、EVトラックが普及すれば温室効果ガス排出量削減に大きく貢献できるでしょう。

参照:環境省

騒音問題の解消や企業価値向上も期待できる

騒音問題の解消や企業価値向上が期待できる点も、EVトラックを導入するメリットのひとつです。

ガソリン車の走行時には、エンジンの燃焼音や排気音が発生するため、住宅街の走行や夜間の走行において騒音トラブルが起こる可能性があります。一方、EVトラックはエンジン音や排気音が発生しないため、騒音問題の解消に大きく貢献できます。

また、EVトラックの導入は企業価値の向上にもつながるでしょう。環境問題に取り組む企業は、投資家から評価される傾向があるため、EVトラックの導入は環境問題への取り組みをアピールするのに有効です。企業価値の向上につなげられるため、事業の持続的な成長を可能にします。

EVトラック普及のため各社でさまざまな取り組みが行われている

次に、EVトラックの普及を促進する取り組みを紹介します。なかなか普及しないEVトラックの現状をふまえ、各社でさまざまな取り組みが行われています。

NEC・ENEOS・日本通運による経路充電の実証実験

NEC・ENEOS・日本通運の3社は、2023年9月から1ヶ月の間、福岡県内でEVトラックの経路充電の実証実験を行いました。EVトラックの普及拡大に向け、経路充電の有効性と運用の課題を検証する取り組みです。

実験では、EVトラックの長距離輸送における経路充電の有効性や、EV運用支援アプリの必要機能および有効性を検証しました。

実験結果をもとに、NECはEV運用支援アプリの価値向上、ENEOSは経路充電ネットワークの拡充、日本通運は顧客のサプライチェーン全体を通じて環境負荷の少ない物流の提案に取り組む必要があることがわかりました。

参照:NEC

ヤマト運輸による小型EVトラック900台導入

ヤマト運輸は、2023年9月に三菱ふそうの小型EVトラック「eCanter」を約900台全国へ導入しました。この導入は、ヤマト運輸が掲げる「2050年度に温室効果ガスの排出量実質ゼロ」という目標に向けた取り組みの一環です。

導入されたeCanterは、最大積載量2トンの小型EVトラックで、1回の充電で116km走行が可能です。EVトラックは長距離輸送において懸念が多いとされていますが、小型トラックなら走行距離や積載量を抑えられるため、住宅街やオフィス街など入り組んだ場所への荷物配送に適しています。

ヤマト運輸では、eCanterをラストワンマイル輸送に活用し、温室効果ガスの排出削減につなげています。

参照:ヤマトホールディングス

課題が多いEVトラックだが、今後順調に普及していくと予測されている

課題が多いといわれるEVトラック市場ですが、2030年までの市場成長率は26.5%と高く予測されています。政府によるイニシアチブの増加や、化石燃料を使用する商用車に対する排出基準の設置、バッテリーコストの低下などによって、EVトラックの普及が進むと予想されるためです。

また、現在では世界各国でEVトラックにおける課題が少しずつ改善されてきています。中国では、車両本体は購入して電池のみリースできる方法が普及したことにより、導入コストが抑えられ、電池交換式EVトラックの販売数を向上させることに成功しました。

航続距離や積載量などEVトラックが抱えるほかの課題も、バッテリーの性能向上や国による補助の増加などによって、少しずつ改善されてきています。さまざまな改善策によって、今後ますますEVトラックの普及は加速していくと考えられるでしょう。

カーボンニュートラル実現のためにはEVトラックの普及が必須

カーボンニュートラルを実現するにはEVトラックの普及が不可欠です。EVトラックは、二酸化炭素の排出量が大幅に少ないため、環境や地域に配慮した輸送が可能です。

しかし、走行距離や充電時間など、EVトラックにはまだまだ複数の課題があります。少しずつ改善されてはいますが、解決できていない課題も存在するため、政府や企業、自治体などが一体となりEVトラックの普及を促進していくことが求められるでしょう。

 

 

 

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