日本でおすすめのEVは?-EV試乗レポート【専門家コラム③】

脱炭素社会に向けて徐々に普及しているEV(電気自動車)。前回に続いて今回もモビリティ―ジャーナリストである楠田悦子さんにEVをテーマに執筆を依頼しました。

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楠田悦子/モビリティジャーナリスト
心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について考える活動を行っている。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。共著に最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本 、編著に「「移動貧困社会」からの脱却: 免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット」(時事通信社)

 

SUV、セダン、軽自動車など近年ではさまざまな電気自動車(EV)が登場してきています。日本で使うとすれば、筆者お薦めのEVは、軽自動車のEVです。

2022年に誕生

軽自動車のEVは2022年に誕生しました。

日産自動車「日産サクラ」と三菱自動車「三菱ekクロスEV」です。この2台は、見た目のデザインは異なり、別のクルマのように見えますが、2社の共同開発で基本的な部分は同じです。

日産自動車「日産サクラ」三菱自動車「三菱ekクロスEV」

(ともに公式HPより引用)

 

日本でEVに先駆的に開発や普及を進めてきたメーカーは、日産と三菱の2社です。日産は世界初の量産電気自動車LEAF(リーフ)を2018年に(その後、欧米などにも展開)、三菱はi-Miev(アイ・ミーブ)のEVを2009年に販売を開始しました(グループPSAのプジョーやシエトロンにOEMされています)。この2社は連携して、これまでのEVのノウハウを凝縮させて軽自動車を誕生させました。

筆者が軽自動車のEVをお薦めする理由は、ガソリン車やハイブリッド車にない何点かのお得さを感じたからです。

これまで日本で販売されていたEVは大きなクルマが多く、運転があまり得意ではない筆者には不向きな上に、価格が高いめでした。サイズが大きく価格が高い分、長い距離でも電欠しないで走られることを期待してしまいがちでした。

軽自動車は短い距離で利用する場合が多いので、軽自動車のEVは一充電あたりの走行距離は気にならず、価格も手ごろで、過酷な道路環境ほどその良さを発揮するので、ドライブを楽しむことができます。運転の苦手な人、女性や高齢者にも向いていると感じました。

▼運転がしやすい

「日産サクラ」と「三菱ekクロスEV」の試乗は横浜の急坂や首都高速などで行われました。

反応が良く、思った通りに動いてくれるのがEVの特徴です。

横浜で指折りの急坂「地蔵坂」は、自転車では登り切れないだろうし、ガソリン車やハイブリッド車であれば信号待ちで止まっているのがつらいような坂です。

軽自動車が急坂で発車する際には、ブレーキからアクセルにペダルを踏みかえる間に後ろに下がってしまったり、踏み込むときのエンジン音が大きくなってしまったりしがちです。しかし、軽自動車のEVは踏み込んだ時の力がガソリン車の軽自動車の約3倍あるため、平地の道路と同じ感覚で運転することができました。

また、交差点の真ん中で反対車線のクルマの流れが途切れるのを待ち、素早くハンドルを切って発車することもできました。

▼高速道路にも強い

さらに、軽自動車のEVはバッテリーを搭載していて重厚感があるため、高速道路を走っていても風に飛ばされるような感覚はなく、走行力でセダンのハイブリッド車に負けないような気がしました。

従来の軽自動車であれば、アクセルを深く踏み込み、大きなエンジン音を立てながら、普通自動車や大型トラックに負けないように注意するなど、いくつもの不安を抱えながら走行しなければなりませんでした。まさに軽自動車に乗っていることを忘れる体験でした。

▼EVのデメリットが気にならない

軽自動車の利用機会としては、日々の通勤、買い物、送迎などが想定されます。1日の走行距離が20km程度で、戸建て自宅の駐車場に停めている時間の方が長いという人も多いでしょう。そのため、軽自動車EVの航続距離の問題をあまり気にする必要がありません。

運転しやすい上に楽しく、スマホのような感覚で自宅で充電もできるところも、軽自動車EVの魅力です。

▼手に届く価格になった

アイ・ミーブ発表時の車両本体価格は459.9万円(税込)でした。補助金139万円が交付されても、実質購入金が320.9万円からと高額でした。一方、eKクロスEVは239.8万~293.26万円(税込)で、クリーンエネルギー自動車導入促進補助金を使えば184.8万円(税込)と、他の軽自動車と変わらない価格帯で購入することができます(日産サクラの車両価格は233.3万円~294万円)。

▼ガソリンスタンドが無い地域や戸建てにちょうどいい

埼玉、千葉、神奈川、福岡などの都市圏、ガソリンスタンドが少ない離島を抱える鹿児島などを中心に受注が伸びていて、今後は軽自動車販売の盛んな地方都市での販売増を見込んでいるといいます。今後は軽自動車のEVが全国で見かけ、身近になることでしょう。

 

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