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VPP(バーチャルパワープラント)って何?導入のメリットから事例までご紹介

世界各地で導入が進み、注目を集めている再生可能エネルギー。その新たな試みとしてVPP(バーチャルパワープラント)という技術があるのをご存じでしょうか?近年ではヨーロッパを中心に普及が進んでおり、日本でも少しずつ導入が進められています。
そこで今回は、VPP(バーチャルパワープラント)とは何か、なぜ必要とされているのかを、誕生した背景も交えてご紹介します。

VPP(バーチャルパワープラント)とは?

VPP(バーチャルパワープラント)とは、日本語で仮想発電所を意味する言葉。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーや蓄電池、電気自動車など、私たちの身の回りに点在する小規模なエネルギーリソースを、IT技術を用いて制御し、一つの大きな発電所のように機能させる技術のことです。
自然の影響を受け、発電量が安定しない再生可能エネルギーのデメリットを解消し、電力の需給バランスを管理する手法としても注目を集めています。

■VPPの仕組み

図:VPPのイメージ

出典:資源エネルギー庁Webサイト

VPPは、小規模な太陽光発電や風力発電、あるいは蓄電池や電気自動車、空調、コージェネレショーンシステム、ネガワット取引などをリソースとして取引しています。
これらのリソースを直接管理・制御する事業者のことをリソースアグリゲーターと呼び、アグリゲーターが集めた電力量を束ねて、電力取引を行う事業者のことをアグリゲーションコーディネーターと呼びます。
このアグリゲーターが連携することで、電力の需給バランスの最適化を行うことが可能になります。

例えば、ピーク時には需要家(※)へ節電を呼びかけ、需要を低下させたり、反対に、夏の日中など発電力が多く見込めるタイミングでは、需要を発生させたり、電力需要のパターンを制御・管理しています。

こうした行動を「デマンドレスポンス(DR)」と呼び、電力の需給バランスを調整するための新しい仕組みです。
このようにしてVPPが実現すると、需要家はエネルギーを効率的に使えるようになるほか、事業者は発電する電力の調整や、過剰供給を気にして出力を抑制する必要がなくなります。

※本記事での需要家とは、電力を消費する各家庭や工場を指します。

VPP(バーチャルパワープラント)の誕生背景

■従来の給電方式の問題
従来の発電・電力供給は、大規模な発電施設から電気の需要に対して送電されていました。
しかし、電力を供給する際には「同時同量の原則」があり、供給される電力量と使用される電力量が常に同量なければなりません。このバランスが崩れてしまうと、電力の品質低下、ひいては停電が発生してしまいます。
大規模発電システムに頼ってしまうと、需要と供給のバランスを保つことが難しいほか、災害発生により施設に問題が発生すると、大規模な停電を引き起こしてしまいます。特に2011年の東日本大震災での停電被害を受けて、エネルギーの需給バランスを管理する方式が求められていました。

■日本での再生可能エネルギーの広がり
一方で、新たなエネルギー創出の手法として、日本でも再生可能エネルギーの導入が広がりを見せています。大規模事業者による太陽光発電や風力発電などはもちろん、ビルや家屋などに設置された太陽光パネルによる発電、電気自動車や蓄電池の利用、各企業や家庭など、小規模なエネルギーリソースが増加傾向にあり、節電や自然環境への意識も高まっています。
しかし、こうした再生可能エネルギーは自然環境の影響を大きく受け、発電量が安定していないほか、それぞれ独立しているため、新たなエネルギーとしてうまく活用しきれないという問題もあります。

こうした再生可能エネルギーをエネルギー供給源として有効に活用し、エネルギーの需給バランスを管理するための方式として、VPPが導入されはじめています。

VPPのメリット

ここまで、VPPの仕組みや、VPPが必要とされる理由ついてご紹介しました。ここからは、VPPのメリットを具体例とともにご紹介します。

■再生可能エネルギーの普及・拡大に貢献
再生可能エネルギーは発電能力の不安定さから、せっかく発電をしても自家消費に使われるなど、エネルギーリソースとして有効活用されていませんでした。しかし、VPPにより複数のエネルギーリソースを一括制御することで、小規模なリソースでも有効に活用することが可能になります。

■低コストで電力需給バランスを調整
これまでのように需給バランスの調整を大規模発電施設に依存している場合、広範囲の需給バランスの調整を行わなければならないほか、需要の急激な高まりに備えて余剰発電設備を用意するなど、莫大なコストがかかっていました。
VPPが導入されると、一つ一つは小規模な発電設備となるため設備費用が抑えられ、電力を集約して供給することができるので、需給バランスの調整も行いやすくなります。

■災害時の停電リスク軽減
大規模発電施設に頼った電力供給体制では、災害時に大規模な電力トラブルが発生してしまいます。
VPPの場合は、小規模な発電設備から電力を集約して供給できるので、災害時でも安定的な電力供給を維持できると考えられています。

ヨーロッパではすでにVPPの事業者が発足しており、ドイツの大手VPP事業者が国内の電力会社と協定を締結するなどの動きもあります。VPPは再生可能エネルギーの利用を促進する仕組みとして、世界で注目されているのです。

VPP(バーチャルパワープラント)を活用した取り組み

VPPの仕組みやメリットをご紹介してきましたが、実際にどんな事例があるの?と思われた方も多いのではないでしょうか。ここでは株式会社アイ・グリッド・ソリューションズが2021年6月から実証実験を始めている「R.E.A.L. New Energy Platform™」についてご紹介します。

■「R.E.A.L. New Energy Platform™」とは?
デマンド・サイド・フレキシビリティ(DSF)により、従来の「需要に合わせて電力供給をコントロールし集中管理する」仕組みから、技術革新によって「供給に合わせて需要を分散管理する」概念に変わりました。

脱炭素が地球全体で取り組むべき課題となった今、火力発電所を作るより、家庭でコントロールして全体の最適化を図る方が脱炭素社会の実現に貢献できます。そのために必要となるのがVPPです。

アイグリッドは既存施設の屋根に太陽光発電所を設置し、自家消費だけではなく、余剰電力を蓄電池・EV等と一体的に情報管理・コントロールするプラットフォームを構築し、需給調整に対して新しいビジネスを生み出そうとしています。これが「R.E.A.L. New Energy Platform™ 」です。
このビジネスモデルはテクノロジーだけではなく、需要家との連携が重要となります。アイグリッドは、地域住民の生活を支える『スーパーマーケット』に基盤があるという強みを生かし、エネルギーの地域循環を目指しています。

■「R.E.A.L. New Energy Platform™」での検証
「R.E.A.L. New Energy Platform™」では、埼玉県のスーパーマーケットヤオコーの協力を得て、『太陽光発電余剰の地域循環ビジネスモデル』が商業ベースで実現できるか、実証実験を行いました。

すでに太陽光パネルが導入されているスーパーマーケットで実証実験を行うことにより、地域へのさまざまな付加価値提供を目指していたこの実験。AIやIoTを使い、データを集めて管理することで、エネルギー消費のコントロールを効率的に行えるかを検証しました。

■「R.E.A.L. New Energy Platform™」に関わるシステム
発電量の予測には、株式会社アイ・グリッド・ラボの発電量計測データ、太陽光発電設備のデータ、気象データなどをベースとしたAI予測技術と、伊藤忠商事の蓄電システム「Grid Share」の予測技術を連携させています。

この実証実験をもとに、将来的には行動経済学のナッジ理論を用いた、法人向けクラウド省エネ支援サービス「エナッジ」や空調制御システム「エナッジAiR」との連携も視野に入れています。「R.E.A.L. New Energy Platform™」については、当サイト内でも詳しく説明しているので、気になった方はぜひご覧ください。

■VPPのほかにも!再生可能エネルギーを利用した取り組み
アイ・グリッド・ソリューションズでは、再生可能エネルギー比率100%かつ二酸化炭素排出が実質ゼロとなる電気「スマ電CO2ゼロ」の提供も開始しています。環境問題に関心のある方、ぜひ利用してみてください。

今回は、VPPの仕組みや誕生の背景、そのメリットと、事例についてご紹介しました。
株式会社アイ・グリッド・ソリューションズは、グリーンなエネルギー社会を実現するため、これからもさまざまなサービス提供・情報発信を続けていきます。

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【記事監修】
岩崎 哲
株式会社アイ・グリッド・ラボ
取締役 CTO
博士(環境学)/人間情報学会理事

【略歴】
東京大学大学院(博士課程)にて、環境学とウェアラブルコンピューティング・センサネットワークを研究。その後15年間AIベンチャーにて経営に従事し、ビッグデータ・AI・DXの研究開発・事業開発を担当。事業の立上げ・組織運営やAIの技術開発・顧客プロジェクトのマネジメントを担う。2020年、アイ・グリッド・ラボ 取締役CTO就任。AI・DXの経験・知見を活かし、エネルギーの新しいプラットフォーム構築事業を立ち上げている。

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