
欧州のEVと充電スタンド普及を支えるカーシェア 【専門家コラム①】
専門家が語るEVの今
脱炭素社会に向けて徐々に普及しているEV(電気自動車)。世界各国で普及が進み、日本でも購入補助などの政策がとられる中、インフラやバッテリー容量などに課題もあります。今回は、そんなEVについて、モビリティ―ジャーナリストである楠田悦子さんにEVをテーマに執筆を依頼しました。
欧州におけるEVの状況から、日本で普及しているEVのレポートまで4回に分けてお話しいただきます。

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について考える活動を行っている。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。共著に最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本 、編著に「「移動貧困社会」からの脱却: 免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット」(時事通信社)
欧州のEVと充電スタンド普及を支えるカーシェア
2020年代のカーボンニュートラル政策以前から、欧州では都市部で電気自動車(EV)や充電スタンドが普及した国があります。そのきっかけとなったのがカーシェアリングです。
フランスのパリ市は、ICTの普及とともにEVのカーシェアリング「Autolib’(オートリブ)」を2011年に、他国に先駆けて大規模に導入しました。
パリでは日本と異なり、クルマが普及する前の古い町並みが残るため、住民の駐車場は路上になります。日本貿易振興機構によると、パリ市はオートリブの運営を、ボレロ・グループ事業委託し、EVの充電スタンドが付いた貸出ステーションがパリと周辺市町村に合わせて約1,100か所設置され、ボレロ・グループが製造するEV「ブルーカー」が約4,000台投入されました。2018年の登録者数は約15万人で、登録者数は伸びる一方で、利用者数が減少し、膨大な赤字を抱えた同サービスは2018年にサービスを終了しました。しかしEV充電スタンドが付いたステーションは残り、プジョー、ルノーなどの自動車メーカーが参入してきているようです。
ドイツはダイムラーが若者のクルマ離れや環境問題の動きなどの変化を捉えて、都市部でカーシェアリング「car2go(カーツーゴー)」を2008年にバーデン・ヴュルテンベルク州のウルムで最初のパイロットプロジェクトを開始しました。その後他地域でも普及を進め、地域行政とともに、2人乗りの小型乗用車smart fortwoを使い、一部にそのEV仕様も活用しました。
その使い方ルールが日本と異なる驚きです。ドイツをはじめ欧州の国々では、日本と異なり、車両を借りた場所に返す必要がありません。加えて路上駐車が一般的であることです。これらの条件をうまく使った「フリーフローティング型カーシェアリング」で、決められたエリア内であればどこにでも乗り捨てることが可能です。
EV充電器の付いた貸出ステーション場所(※画像をクリックするとYouTubeへ移動します。)
ダイムラー以外にもBMWなどが同様のカーシェアリングサービス「Drive Now(ドライブナウ)」を始めました。その後ダイムラーとBMWは「car2go」と「DRIVE NOW」を統合して「SHARE NOW(シェアナウ)」というブランド名で展開しています。
「SHARE NOW」は2022年現在では、ドイツではベルリン、ケルン、デュッセルドルフ、フランクフルト、ハンブルク、ミュンヘン、ミュンスター、シュトュットガルト、フランスのパリ、オーストリアのウィーン、スペインのマドリッド、イタリアのミラノ、ローマ、トリノ、ハンガリーのブダペスト、デンマークのコペンハーゲン、オランダのアムステルダムでサービスを展開しています。
※サービスを展開している都市(SHARE NOWのアプリより)
国や地域毎に車両のラインナップやEV充電スタンドの数が異なります。たとえば、国土が平坦で地球温暖化により海水面の上昇が水害に直結するオランダは環境問題への関心が高く、首都アムステルダムでは、借りられる車両はBMWi3、Fiat500e、smart EQ fortwo、Peugeot e-208のEVのみで、街のあちこちに充電ステーションがあります。他の国や地域ではEVのみならず車両も借りることができます。SHARE NOWのアプリで、日本からも、各地域で借りられる車両ラインナップやEV充電ステーションを確認することができます。
(アムステルダムの車両ラインナップ:https://www.share-now.com/nl/en/amsterdam/)
※アムステルダムの充電ステーションの状況(SHARE NOWのアプリより)
日本のEV普及も2010年代に入ってから、自治体の公用車やタクシー車両などを普及したり、急速充電器の普及に力を入れたりしながら普及を進めました。東京都では「2050年CO2排出実質ゼロ」に貢献する「ゼロエミッション東京」の実現に向けて、都内で新車発売する乗用車を2030年までに100%非ガソリン化することを目指しています。そのため、都内のさまざまな場所で約1,000器の急速充電器を設置する目標を掲げています。民間事業者が経営する駐車場には、事業者負担がほぼ無しで設置できるように導入補助のメニューを用意しています。
日本では欧州と異なり、路上が駐車場として使われることが一般的ではなく、車両を借りた場所に戻さなければいけないので、乗り捨て自由なカーシェアリングはビジネスモデルとして成り立ちませんでした。そのため路上に充電スタンドを設置する取組みが、これまで検討されてきませんでした。
さらに欧州のように駐車場の場所が少ない地域では、路上で急速充電ができるような設備の準備を国土交通省の社会実験のメニューを活用して、2022年度より「電気自動車用充電器の公道設置に関する実証実験」を行っています。この国交省は実証実験を通して電気自動車用充電器の公道設置に関するガイドラインも策定する予定にしています。
EVの普及とともに都内で充電器を設置する駐車場が増えるでしょう。一方で、大きな企業が自治体と連携して先行投資として充電インフラを整備することにより、EV購入者が増える可能性があります。さらには、電欠の心配が少なくなり搭載するバッテリーが小さくなりEVの価格が下がることもあるでしょう。
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