グローバル・ストックテイク(GST)とは?目的・役割、手順について解説

気候変動対策という世界共通の目標に対して、世界では様々な取組や制度が実施されています。
グローバルストックテイク(以下、GST)はこの目標達成に向けて実施状況を評価する制度の1つです。
この記事ではGSTの役割と手順、COP27で行われたGSTの手順の1つについて解説しています。

グローバルストックテイク(GST)とは?

GSTとは2015年のパリ協定(COP21)で採択された3つの目標の達成に向けて、世界全体で進捗状況を5年ごとに評価する仕組みです。

2021年に英国・グラスゴーで開催されたCOP26で実施するにあたっての具体的なルールブックが完成し、2021年11月から2023年11月の2年間にわたって実施されます。

 

パリ協定で採択された3つの目標とは以下の通りです。

・世界の平均気温の上昇を産業革命前以前に比べ2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求すること
・気候変動の影響に対する適応能力と気候レジリエンスを強化すること
・温室効果ガス(GHG)の排出が低く気候に対して強靭である発展に資金の流れを適合させること

パリ協定は、①途上国を含む全ての参加国に排出削減の努力を求めたこと、②従来は先進国のみにトップダウンで定められた排出削減目標に対してボトムアップのアプローチを採用したことで画期的な枠組みと言われています。

参考文献▷IGES 公益財団法人地球環境戦略研究機関|グローバル・ストックテイク(GST)とは?

 

グローバル・ストックテイク(GST)の目的と役割

パリ協定には長期目標達成に向けて、各国の目標をより高い目標へと引き上げる野心度引き上げメカニズムが存在します。

グローバル・ストックテイクは野心度引き上げメカニズムの中の1つの制度です。

野心度引き上げメカニズムは、初めに各国が温室効果ガスの排出量や削減目標であるNDC(自国が定める貢献)の取り組み状況を基に書かれているBTR(透明性隔年報告書)を2年ごとに提出します。次に各国はBTRやIPCCの情報をまとめた報告書であるETF(強化された透明性枠組み)を提出して、GSTが行われます。その後、GSTで得られた示唆は各国にフィードバックされ、NDCの更新に活かされます。

画像引用▷Tamura, Suzuki and Yoshino (2016). Empowering the Ratchet-up Mechanism under the Paris Agreement
参考文献▷気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)|ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編

 

GST(グローバル・ストックテイク)の手順

画像引用:IGES|グローバル・ストックとは

GSTは(1)情報収集・準備、(2)技術的評価、(3)成果物の検討、の主に3つの手順で構成され、全体で2年間をかけて実施されます。

(1)情報収集・準備
2つの作業を行っています。作業期間は(2)技術的評価と一部重複しています。2つの作業は以下の通りです。

・情報源のリストに沿って共同ファシリテーターやUNECC事務局と共に情報収集を行っています。

・技術的評価の実施の準備・支援として締約国同士の交渉、SBSTA*1・SBI**(2)の両議長が「技術的評価」及び「成果物の検討」を効果的・効率的に進めるために各テーマや分野横断的事項に関するGQ***を作成、公開しています。

*SBSTA:科学上及び技術上の助言に関する補助機関
**SBI:科学上及び技術上の助言に関する実施期間
***GQ(ガイディング・クエスチョン):具体的な声掛け

(2)技術的評価
3つの内容が実施されています。3つの内容は以下の通りです

・技術的対話の開催:技術的対話は、締約国と専門家(国連機関、国際機関、条約関連組織やフォーラム及びその他制度的措置などの情報提供組織の専門家)の間で収集した情報を科学的知見に基づき検討する場です。「情報収集・準備」の前に実施されている「事前準備」で選出された共同ファシリテーターが、「情報収集・準備」でSBSTA・SBI両議長が作成する GQ に沿って技術的対話を実施します

・IPCC-SBSTA 特別イベント :IPCCに存在する3つの作業部会(WG)の共同議長と副議長及び IPCC 報告書の著者と締約国の間で最新の IPCC 報告書に示された知見に関する情報を交換する場です

・「技術的評価」の成果物作成::共同ファシリテーターが、技術的評価の結果をテーマの別に要約した報告書と分野横断的統合報告書としてまとめます。また作成時期は第 3 回技術的対話終了後の 2023 年 8~9 月頃と想定しています

関連記事はこちら▷IPCCとは?第6次報告書の内容や意味について簡単に解説!

(3)成果物の検討:2つの内容が実施されています。2つの内容は以下の通りです

・ハイレベル・イベント(成果物検討会)が開催されます。CMA****・SBSTA・SBI全議長がメンバーであるハイレベル委員会が議長を務め、「技術的評価」の結果が議論・検討されます。

・ハイレベル・イベントでの検討結果として成果物を作成します

****CMA:パリ協定締約国会合

最新のCOP27で行われた第2回の技術的対話について

第2回の技術的対話はCOP27期間中の第1週目に5日間に渡り開催されました。技術的対話では2つの事前注目ポイントが存在しました。

・第2回技術的対話では、プレナリー、ラウンドテーブル、ワールドカフェに加え新たにフォーカスエクスチェンジという4種類の多様な会議形式が導入されました。また1つの議題に対してより深く議論するためにそれぞれの会議形式でトピック・セクター別の会議スタイルが導入されました。

・第1回技術的対話ではパリ協定の実施におけるギャップや課題が多く特定されました。そのため第2回技術的対話ではギャップや課題はどのように埋められるかが議論の焦点となりました

トピック・セクター別の会議スタイルが導入されたことで、議論のポイントが明らかになり、参加者間でよりギャップを埋めるため具体的な事例や対策の共有が進みました。

第2回技術的対話を経て、対話のテーマの不透明性や会場の設備やレイアウトの工夫の必要性といった新たな改善点や課題も見つかりました。
次回のCOP28に向けて、より円滑な議論となるよう改善されていくことでしょう。

 

参考文献▷IGES 公益財団法人地球環境戦略研究機関|グローバル・ストックテイク(GST)COP27の結果と2023年の展望

まとめ

第1回のグローバル・ストックテイクは3回目の技術的対話と成果物の検討を残すのみとなりました。

COP26では、現在各国のNDCに記載されている目標値をすべて足し合わせても、2030年の温室効果ガス排出量は2010年比で13.7%増加することに対し、深刻な懸念が示されていました。

第1回のグローバル・ストックが終了して各国が2030年、2050年に向けて温室効果ガス削減目標をどのように更新・強化してNDCを作成するかに注目しましょう。

 

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