地球温暖化や気候変動などについて理解するうえで知っておきたいのが、IPCCという組織についてです。IPCCは気候変動に関する専門的なデータや予測を提供していて、2021年から2022年にかけて最新の「第6次報告書」が公表されました。
本記事では、IPCCの目的や組織構成、最新の第6次報告書の内容などを紹介します。この記事を読んで、気候変動対策の現状やIPCCの活動内容について理解しておきましょう。
IPCCとは?
IPCCは「Intergovernmental Panel on Climate Change」の頭文字を取ったもので、「気候変動に関する政府間パネル」という国際的な組織のことです。2021年8月時点で195の国と地域が参加しています。
各国の政府関係者に加えて、気候変動などの分野の専門家や科学者も参加しており、地球温暖化や気候変動の問題に対応するために必要な専門知識や情報を世界に公開する組織です。
IPCCの目的とは
IPCCの目的は、「各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えること」とされています。具体的な活動としては、世界中の科学者の協力のもと、気候変動や地球環境などの文献や論文に基づいた報告書の作成や、気候変動に関する最新の科学的知見・見解の提供などを実施しています。
専門的な知識や見解をもとに各国の政策立案者への助言は行いますが、政治的には中立的な立場で、具体的な政策の提案などは行いません。
IPCCの構成について
IPCCは3つの作業部会と1つのインベントリー・タスクフォースによって構成され、それぞれの部会とタスクフォースは以下のような役割を担っています。
第1作業部会(WG1) |
・「科学的根拠」を軸とした作業部会
・気候システムおよび気候変動についての評価を行う |
第2作業部会(WG2) |
・「影響、適応、脆弱性」を軸とした作業部会・生態系や社会・経済活動などの各分野において、影響および適応策についての評価を行う |
第3作業部会(WG3) |
・「緩和策」を軸とした作業部会
・気候変動に対する対策(緩和策)についての評価を行う |
国別温室効果ガス目録(TF1) |
・各国の温室効果ガスの排出量
・吸収量の目録作成手法の策定や改定を行う |
上記3つの作業部会とタスクフォースについて、以下で詳しく解説します。
参考:気象庁「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」
第1作業部会(科学的根拠)
第1作業部会は、科学的根拠に基づいて地球温暖化の原因や現状、将来の予測についての情報を提供する作業部会です。地球温暖化と温室効果ガスや人間による社会活動との関連について、これまでの観測データに基づいてまとめた報告書を作成しています。そのほか、今後予想される気温や海水面の上昇などについてもデータを提供しています。
科学的根拠に基づいた客観的なデータによって現状と今後の予測を行う第1作業部会は、IPCCの核となる情報を取り扱っているといえるでしょう。
第2作業部会(影響、適応、脆弱性)
第2作業部会は影響・適応・脆弱性に軸を置いて、人間活動や自然環境、生態系などに着目しています。気候変動が自然や人にどのような影響をもたらすのか、想定されるリスクにはどのようなものがあるのかなどをまとめている部会です。
具体的には、以下のような影響やリスクについて報告しています。
- 水資源への影響
- 生物の生息域の変化
- 農作物への影響
- 海水面の上昇や異常気象、熱波などのリスク
このように、第2作業部会が取り扱うのはわたしたちのこれからの生活に直結するテーマで、身近に感じやすい情報です。
第3作業部会(緩和策)
第3作業部会が取り扱うのは、緩和策についてです。地球温暖化と気候変動を緩和するために、削減すべき温室効果ガスの排出量や削減方法についての評価、具体的な削減可能性や必要なコストなどに着目しています。
また、温室効果ガスの排出量を削減することで将来的にどの程度の気温上昇を防げるのかなど、今後の予測も行っています。温室効果ガス排出量の削減や脱炭素に取り組む組織や企業にとって、注目すべき作業部会であるといえるでしょう。
インベントリー・タスクフォース
インベントリー・タスクフォースは、「IPCC国別温室効果ガス インベントリープログラム(IPCC NGGIP)」に関わるタスクを担っています。国別温室効果ガスインベントリープログラムとは、各国が温室効果ガスの排出量や吸収量を計算して報告するために、国際的に合意された手法やソフトウェアの開発を行う活動です。加えて、IPCCに加盟している国への同手法の使用促進も担当します。
温室効果ガス排出量の計算方法について取りまとめ、ガイドラインを開示することなどが主な活動です。また、計算結果の報告のための手法やソフトウェア、関連ツールの開発も行っています。
IPCCの報告書の種類3つ
IPCCは各国が気候変動対策に関する政策立案の参考にできるように、いくつかの報告書を作成しています。具体的には、以下の3種類です。
- 評価報告書(Assessment Report)
- 特別報告書(Special Report)
- 方法論報告書(Methodology Report)・技術報告書(Technical Paper)
以下で、それぞれどのような内容を報告しているのかを解説します。
評価報告書(Assessment Report)
評価報告書は、気候変動問題の全般にわたって最新の科学的知見をまとめたものです。3つの作業部会がそれぞれ担当する分野の報告書を作成し、それに加えて3つの報告書をまとめた統合報告書も作成されます。
影響力の大きな報告書で、これまで1997年の京都議定書の合意や2015年のパリ協定の合意に、それぞれ直近で作成された評価報告書が大きな影響を与えました。政策立案のための議論に科学的な根拠を与える資料として、重要な役割を担っています。
特別報告書(Special Report)
特別報告書は、評価報告書とは別に特定のテーマに関する報告書としてまとめられたものです。気候変動枠組条約補助機関または国際機関からの要請を受け、IPCC総会で作成が決定された場合に作成されます。
例えば、2015年のパリ協定では世界全体の平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求すると示しました。それに伴い、1.5℃の気温上昇による影響とそこに至る温室効果ガスの排出経路について特別報告書の作成が要請され、2018年に「1.5℃特別報告書」が作成されています。
方法論報告書(Methodology Report)・技術報告書(Technical Paper)
方法論報告書と技術報告書は、特別報告書と同様に特定のテーマについてとりまとめた報告書です。方法論報告書は、温室効果ガスの排出量・吸収量の算定方法を提示する報告書で、技術報告書は気候変動枠組条約締結国が国際的な科学的・技術的予測を必要とする場合や、IPCCが必要と判断したときに作成されます。技術報告書には、その時点までに発表されている評価報告書や特別報告書の内容もとりまとめられます。
参考:環境省「特別報告書/技術報告書/方法論報告書」
IPCCの第6次報告書で報告されたことまとめ
IPCCは1988年に設立され、最初の報告書である「第1次報告書」が1990年に公表されました。その後、5〜7年ごとに新しく報告書が公表されています。最新の報告書は第6次報告書で、第5次報告書から8年ぶりに更新されました。
SDGsや気候変動、地球温暖化などに関心を持つ人が増えているなか、IPCCの報告書も注目を集めています。ここでは、最新の報告書である第6次報告書の内容についてみていきましょう。今回は、大きなトピックとして以下の4つを紹介します。
- 人間活動による温暖化には「疑う余地がない」
- 極端現象(大雨・猛暑等)の増加にも人間活動の影響が現れている
- 2021-2040年の平均気温が1.5℃に達してしまう可能性が5割程度
- 南極氷床の不安定化により海面上昇が加速する可能性がある
それぞれの内容について、以下で詳しく解説します。
参考:一般財団法人環境イノベーション情報機構「IPCC第6次評価報告書で明らかになった気候科学の最新知見(国立環境研究所・江守正多)」
人間活動による温暖化には「疑う余地がない」
第6次報告書では、地球温暖化の原因が人間活動の影響であることに「疑う余地がない」と結論付けられました。これまで第3次報告書や第4次報告書では、地球温暖化の原因が人間活動である可能性については「可能性が高い」とされており、2014年の第5次報告書では「可能性が極めて高い(95%以上)」と評価されていました。
それが、第6次報告書では初めて「人間活動が地球温暖化の原因である」と断定されています。「人間活動の影響」とは、二酸化炭素などの温室効果ガスが大気中に増加したことによる加熱効果のことです。
極端現象(大雨・猛暑等)の増加にも人間活動の影響が現れている
近年、猛暑や大雨などの極端現象が増えています。第6報告書では、このような異常気象といわれるような現象も人間活動が影響していると結論づけています。平均気温の上昇で気温が極端に上がる日が増え、気温上昇で水蒸気量が増えることで大雨の頻度が上がるなど、人間活動が気象に影響を与えているのは理論的に明らかです。
今後さらに温暖化が進めば、極端現象がより頻繁に起きることが予測されます。猛暑や大雨のほかに、地域によっては干ばつが深刻化するという予測も出ています。
2021-2040年の平均気温が1.5℃に達してしまう可能性が5割程度
第6次報告書では、将来の地球温暖化の見通しをいくつかのシナリオに沿って評価しています。世界平均気温の上昇を1.5℃に抑える「非常に低い」シナリオでは、今世紀半ばに人間活動による二酸化炭素の排出量を実質ゼロとする必要がありますが、この場合でも2021-2040年の平均気温が1.5℃に達してしまう可能性が5割程度だと評価されました。
ちなみに、現状の対策レベルである「中間」シナリオでは、今世紀半ばに世界平均気温の上昇が2℃を超えてしまうと予測されています。
南極氷床の不安定化により海面上昇が加速する可能性がある
具体的な可能性は不明なものの、もし起こった場合に重要な影響をもたらすリスクとして、南極氷床の不安定化が挙げられています。世界平均の海面水位は産業革命前から約20cm上昇していて、先ほど紹介した「非常に低い」シナリオでも今世紀末にはさらに50cm程度の海面上昇が予測されています。
加えて南極氷床の不安定化が起きた場合、2300年には海面水位が15mも上昇する可能性があると評価されました。
まとめ
IPCCは「気候変動に関する政府間パネル」という国際的な組織で、気候変動や地球温暖化について科学的な専門知識を提供して各国の政策立案に役立てることを目的としています。
IPCCの第57回総会が2022年9月27日から10月1日にかけて行われ、11月には温室効果ガスの濃度を安定化させるための国連気候変動枠組条約の第27回締約国会議(COP27)が開催されます。気候変動対策について国際的に取り組みが進められているので、最新の情報をチェックしておきましょう。
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