
観光や高齢者の移動に「多様な電動モビリティ」が注目される理由【専門家コラム④】
脱炭素社会に向けて徐々に普及しているEV(電気自動車)。前回に続いて今回もモビリティ―ジャーナリストである楠田悦子さんにEVをテーマに執筆を依頼しました。
前回の記事はこちら。

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について考える活動を行っている。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。共著に最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本 、編著に「「移動貧困社会」からの脱却: 免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット」(時事通信社)
クルマやバスといった移動手段の他に、観光や高齢者の足の確保を目的に、グリーンスローモビリティ、電動アシスト自転車、e-Bike(イーバイク)、電動キックボード、電動車いすといった多様な電動モビリティを使ってみたいというニーズが高まっています。
▼グリーンスローモビリティ
日本遺産のひとつ臨済宗大本山の永源寺が位置する滋賀県東近江市の道の駅「奥永源寺渓流の里」では、2021年4月23日から電動モビリティを用いた自動運転サービスをはじめました。自動運転サービスに用いられているのが、ヤマハのゴルフカートを改造した6人乗りの車両で、運行ルート上に電磁誘導線を敷設して運行しています。
奥永源寺を走るグリーンスローモビリティを使った自動運転サービス
走り始めると心地よい風がそよぎ、住民の方がニコニコしながら気さくに手を振って迎えて下さり、日本の原風景のなかの自然や暮らしを楽しむことができました。電動モビリティを用いた自動運転システムが村に馴染み、観光客と住民との一体感が生まれていると感じました。
幅があり往来の激しい幹線道路よりも、少し脇道に入った小道にこそ探訪の楽しみがあります。また自宅からバス停まで歩くことができない高齢者もたくさんいます。そのため、大きなバスは向いておらず、自然や集落の中を静かにゆっくり走る電動モビリティが重宝されます。
東近江市では高齢者の移動手段と交通事業者のなり手不足の確保のために、電動モビリティを使った自動運転サービスを開始しました。市の担当者は「地域内を移動する交通として悪くない」と言います。安全運行や健康管理のノウハウを持つタクシーやバスの事業者が、二種免許ではなく白ナンバーのドライバーを雇用しながら運行を担う、事業者協力型自家用有償旅客運送の新制度が2020年11月にできました。市がサポートしながら、これがスタンダードになっていってほしいと考えています。
おもちゃのようにかわいらしいイーコムテン
茨城県の境町や羽田イノベーションシティなどで走っている自動運転用に作られた仏ナビヤ社アルマは、360度ビュー、車内の空間や外見も未来感や美しさがあり、乗ると日常を非日常に変える力があります。栃木県の塩原市の実証実験で使われたシンクトュギャザー社のeCOM-10(イーコムテン)は、黄色くおもちゃのようなかわいらいさがあり、老若男女に愛されていました。このようにグリーンスローモビリティのデザインにも期待が寄せられています。
グリーンスロービスを使って、無人の自動運転サービスを走らせることは、法律の整備などに時間がかかり当面は難しいのが実情です。しかし、そのデザイン性の高さや新たな移動サービスの可能性を鑑みると、無人の自動運転サービスではなくても、ドライバーは観光ガイドや高齢者の乗降補助などとしてスタッフを兼務しながら、走らせてもよいかもしれません。
▼電動アシスト自転車や電動キックボード
2024年にオリンピック・パラリンピックを開催するパリは、新型コロナウィルスのロックダウンを契機に、劇的に変わってきています。中心市街地のクルマが通る車線を、徒歩、自転車、電動キックボードに解放したり、カフェにしたりと、日常のほとんどの用事を徒歩や自転車で済ますことができる都市計画「15分都市」を目指しています。このように、道路の使い方を変えて、自転車や電動キックボードなどの電動モビリティのシェアリングを使って、環境にやさしく健康で活気のある街に作り変えていこうという動きが、欧米を中心に活発化しています。
都市部に住む子育て層の新三種の神器となっていて、軽自動車のような使われ方をしているのが電動アシスト自転車です。販売台数が右肩上がりに伸びています。
2017年より「自転車活用推進法」が施行され、欧州のように自転車を活用していくことを日本でも推進することになり、それにより自転車活用が一層加速化しています。
また、電動アシスト自転車のシェアリングや、ここ数年で日本の都市部でサービスがはじまった、電動キックボードのシェアリングは、若い住民の近距離移動に人気です。通勤で使っているという人もいます。
道路に青色のマークを見たことがないでしょうか。電動アシスト自転車や電動キックボードは、道路の工夫があってこそ、安全に利用することができます。東京都の江東区の下町、清澄白河駅の周辺はコーヒーの街として知られ、チェーン店の飲食店がほとんどありません。庭園、寺社仏閣、オシャレなお店があり、週末ぶらりに楽しい地域です。この地域には、自転車が走る所を記した青色の矢羽が、ありとあらゆる道路にあります。そのためクルマ、自転車、徒歩がちょうど良い感じ共存していて、安心して歩けます。
日本の都市はもともと欧州よりも利便性が高く、15分都市を実現している都市はたくさんありますし、クルマが普及する以前にできた街も、江東区のように道の使い方を工夫すれば実現可能ではないでしょうか。
“江東区の道路と矢羽根”と”カフェに設置された電動キックボード”
さらに、最近ではクロスバイク、マウンテンバイクといったスポーツタイプの自転車に電動アシストがついたe-Bike(イーバイク)が観光で大活躍しています。長野県の乗鞍高原、熊本県の阿蘇地域、淡路島などで各地で観光客向けに、宿泊施設が貸し出したり、観光ツアーを組んだりしています。
▼電動車いす
地域内の移動に、電動車いすも再注目されています。これまでの電動車いすといえば、病院の中で乗るイメージでしたが、足に不自由さがあったとしてもアクティブに生活したい若者や高齢者の活動をサポートする移動手段としてイメージが変わってきています。
電動車いすにもいくつか種類があり、ジョイスティック形電動車いす、ハンドル形電動車いす、さまざまな機能が付いた電動車いすなどがあります。
四輪自動車の電動化の話を単体で考えることが多く、他の電動モビリティと合わせて網羅的に考えることは少ないのではないでしょうか。これからは、EV、PHV、小型モビリティ、自動運転、電動キックボード、自転車、電動車いすなど多様なモビリティを活用していく時代になってきています。
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