カーボンバジェットとは?1.5℃目標について分かりやすく解説

地球温暖化が進む中、世界は「産業革命後の気温上昇を1.5℃に食い止めよう」という目標に向かって進んでいます。そんな地球温暖化に関連する言葉として出てくるのが、「カーボンバジェット」です。なんとなく聞いたことはあるものの、実際はどういう意味なのか気になっている人も多いのではないでしょうか。

本記事では、カーボンバジェットの詳しい説明や地球温暖化との関係、1.5℃目標に向けた具体的な取り組みなどを紹介します。地球温暖化や環境問題に関心のある方は、ぜひ参考にしてください。

カーボンバジェットとは?

カーボンバジェットとは、地球温暖化による気温上昇をある一定の数値に抑えようとした場合、その数値に達するまでにあとどのくらい二酸化炭素を排出しても良いか、という「上限」を表す言葉です。直訳すると、「炭素予算」を意味します。

2010年にメキシコのカンクンにて行われた、気候変動枠組条約第16 回締約国会議(COP16)では、産業革命後の気温上昇を2℃以内に抑える「2℃目標」が設定されました。その後2015年のパリ協定では、更なる努力目標として、1.5℃に抑えようという「1.5℃目標」を掲げています。

 「1.5度目標」に向かって、地球全体の二酸化炭素排出量を調整していく指標となるのが、カーボンバジェットです。1.5度目標を達成するには、2030年までに二酸化炭素の排出量を2010年比で45%削減し、さらに2050年までに二酸化炭素排出量を正味ゼロ(カーボンニュートラル)にする必要があるとされています。

この2050年にカーボンニュートラルを達成するまでに排出できる二酸化炭素の量が、カーボンバジェットです。詳しくは後述しますが、残りのカーボンバジェットは2020年時点であと8%といわれています。

参考:IPCC「1.5℃特別報告書」の概要|環境省

カーボンバジェットと地球温暖化問題の関係

カーボンバジェットが設定された背景には、地球温暖化問題があります。

2015年のパリ協定で「1.5℃目標」が掲げられ、各国それぞれが二酸化炭素の排出量削減に向けた目標を設定しました。その後なかなか二酸化炭素の削減が進まない中、2018年10月に韓国で開かれたIPCC第48回総会で承認されたのが、「IPCC1.5℃特別報告書」です。

「IPCC1.5℃特別報告書」とは、2040年には世界の平均気温が1.5度上昇すると予測したうえで、その影響やどのような対策ができるかをまとめたものです。この報告書で、二酸化炭素の排出量と世界平均気温の変化量が比例しているとし、1870年以降からの累積排出量を2900ギガトンに抑える必要があるという答えを導き出しました。

すでに2011年までに1900ギガトンの二酸化炭素排出が認められているため、2012年以降の累計排出量は1000ギガトン以内に抑える必要があるとしています。

カーボンバジェットは目標までに排出していいCO2の総量のこと

1.5℃目標を達成するには、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする必要があります。それまでに排出していい二酸化炭素の量が「カーボンバジェット」です。具体的には2012年〜2050年までに「1000ギガトン以内」というのがひとつの目安とされています。

気温上昇が1.5℃のときと2℃のときとでどう変わる?

地球温暖化による気候変動が起こすリスクは、気温上昇が1.5℃の場合と、2℃の場合ではどう変わるのでしょうか。

「1.5℃特別報告書」では、「気候・気象の極端現象の変化」「海面推移の上昇」「陸域生態系への影響・リスク」「海洋生態系への影響・リスク」「社会・経済への影響・リスク」の5つに関して、どのような変化を起こすか予測しています。気温が1.5℃から2℃に上昇した場合にどのようなことが起こりうるか、いくつか事例を見てみましょう。

・生息域の半分以上を失う陸域生態系(昆虫、植物、脊椎動物)の割合が2倍以上増える

・2100年までの世界平均海面が10cm上昇する

・夏に北極海の海氷が消失する可能性が10倍高まる

・水ストレス(生活不便を感じる程度の水不足)を感じる人の割合が50%増える

このように、たった0.5度の差でも人間や生態系、経済への影響を急加速させると予想されています。1.5℃は努力目標とされていますが、1人1人が1.5℃目標に向かって行動を起こすことが重要です。

参考:IPCC「1.5℃特別報告書」の概要|環境省

そもそも地球温暖化の現状はどうなっているのか

カーボンバジェットとは?残りや1.5℃目標について分かりやすく解説

IPCC第5次評価報告書によると、世界の平均気温は1880年〜2012年の間に0.85℃上昇しているとされており、温暖化が進み続けている状況です。

また、2014年時点における過去30年間の各10年間は、地球の表面温度がこれ以前のどの10年間よりも高温であり続けたとの報告もありました。日本だけでみても、1898年〜2014年の間に平均気温が約1.15℃上昇しており、長期的な上昇傾向が続いていることが分かります。

影響があるのは気温だけではありません。北半球中緯度の陸域では、降水量が増加し続けています。日本では、年ごとに降水量の変動幅が大きくなっているという現状があります。特に短時間強雨や猛暑日の増加が顕著に現れており、世界的な極端現象化の一角と捉えることができるでしょう。

また、1971年から2010年の30年間では海の上層・深層ともに水温が上昇しています。最も大きな影響を受けているのは南極海で、1991年までの過去20年間で約5000ギガトンの氷河が損失しているのが現状です。

それに伴い、1〜2cmの海面上昇も見られているようです。南極には地球の90%の氷が存在するため、気温上昇によって氷が溶けると、海面の上昇によって世界中のさまざまな国で生活への影響が及ぶと考えられます。

参考:IPCC第5次評価報告書の概要|環境省

地球温暖化が進むことにより今後考えられること

IPCC第6次評価報告書によると、このまま世界的な気温上昇が続けば、1.5℃上昇した場合で2100年には海面は28〜55cm上昇するとされています。最悪の場合、最大1mにまで達するとの見方もあり、日本を含む島々に住む人々や、低い土地に住む人々に与える影響は計り知れません。

また「50年に一度」と表現されるような記録的な熱波が起こる確率は、気温が1.5℃上昇すると、産業革命前に比べて8.6倍、2℃では13.9倍になるともいわれています。

このまま行けば2040年には1.5℃を超える可能性が高いとのシナリオ分析もあるため、どの国も脱炭素に向けた取り組みを一層強化していかなくてはなりません。

参考:最新の地球温暖化の科学の報告書|WWFJAPAN

カーボンバジェットの残りや現状

Global Carbon Projectの2020年報告書によると、気温上昇を1.5℃に抑えようとする場合、残りのカーボンバジェットはたったの8%です。現在の排出スピードでいうと10年弱で到達する見込みとされています。

現状では、コロナウィルスによってどの国も経済が縮小傾向にあることから、二酸化炭素の排出量は世界的に減少しています。ただし収支はプラスのため、大気中の二酸化炭素濃度は依然増加したまま。

コロナウィルスの動向によって今後の予測も変わってきますが、いずれにしても、経済の回復を計らいつつ、いかに二酸化炭素の排出を抑え続けるかを検討していく必要があるでしょう。

参考:世界の二酸化炭素収支2020の発表|東京大学未来ビジョン研究センター

参考:Global Carbon Budgetレポート|CLIMATE DIALOGUE JAPAN

カーボンバジェットは排出ギャップの関係で算定が難しい

地球温暖化に向けて取り組みを進める中で、あとどのくらい排出できるかの目安となるカーボンバジェット。しかし、実際にはカーボンバジェットを正確に把握することは難しいとされています。各国の削減目標と、1.5℃や2℃に気温上昇を抑えるために必要な二酸化炭素削減量の水準とには、大きな差があるからです。これを「排出ギャップ」と呼びます。

なぜ排出ギャップが起こるかというと、国によって前提条件や目標の数値・期間が異なるためです。また、途上国においては「GDPあたりの削減目標」を設定しているため、二酸化炭素の全体的な排出量を計算することが難しいのが現状です。

各国が目標を達成したとしても、それが実際に1.5℃目標達成の数値に達しているかは、なかなか単純計算できないことが課題だと言われています。

専門家の中には、1.5℃目標を達成するには、各国の今の目標をさらに高く設定しなければならないという人もいます。このまま進めば、2030年の排出ギャップは14〜17ギガトンになるとの予想も。ただし、地球全体で二酸化炭素排出対策をすべて行うことで、排出ギャップを埋められるとの見方もあるようです。

参考:カーボンバジェットとは?|全国地球温暖化防止活動推進センター

日本が地球温暖化防止に向けて掲げている目標は?

日本では、パリ協定で目標とした数字をさらに引き上げ、2030年までに2013年比で46%の削減を行うことを決定しました。同時に、50%の削減に向けて挑戦を続けることも表明しています。

背景には、1.5℃目標に向けて2050年にカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出がプラスマイナスゼロになること)を実現しなければならないというものがあります。

そこから毎年の削減量を逆算すると、2030年の時点で45.9%になることから、新たな目標が決まったとされています。2030年に目標を達成するため、政府は以下の5つの取り組みを行うとしています。

・再生可能エネルギー等の脱炭素電源の活用

・投資を促すための刺激策

・地域の脱炭素化への支援

・グリーン金融国際センターの開設

・アジアなど、海外への脱炭素移行支援

日本で排出している二酸化炭素の4割は発電によるものであることから、2030年までに再生可能エネルギーや原子力発電の最大化を図ることが一つのポイントとなるでしょう。

ただし、目標達成のための技術革新やビジネスモデルの転換を行うのは実質的に日本の産業界となるため、負担がかからないよう配慮するなどの課題が政府には求められています。

IGSでも脱炭素への取り組みを強化中

あとどのくらいの二酸化炭素排出の余地があるかという指標を示す、カーボンバジェット。産業革命後の気温上昇を1.5℃に抑えようとした場合、あと8%しか残っていないという指摘がされています。

このままでは2030年までに1.5℃に到達する恐れがあり、世界には早急な対応が求められています。国内では、二酸化炭素排出削減の鍵となる発電を中心に対策を行っている最中です。政府や産業界だけでなく、国民1人1人が自覚を持って行動することが今後さらに求められるようになるでしょう。

アイ・グリッド・ソリューションズ(IGS)でも、地球温暖化を食い止める脱炭素に向けた取り組みを進めています。省エネ行動をAIが一元管理するエネルギーマネジメントシステムや、二酸化炭素排出量実質ゼロの家庭用電力供給など、さまざまな企業や個人にフィットする事業を行っています。環境問題に興味のある人は、ぜひ公式HPも併せてチェックしてみてください。

 

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