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炭素会計とは?初心者にもわかりやすく概要や手順を解説

環境部門の担当者などのなかには、炭素会計という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。炭素会計の知識が必要になったものの、そもそも炭素会計がどのようなものなのかがわからない、とお困りではないでしょうか?

炭素会計とは、簡単にいえば自社が排出している温室効果ガスの量を把握し、実際に温室効果ガスの削減を行うまでの方法論のことです。

本記事では、炭素会計の概要や仕組み、手順などについてわかりやすく解説します。まずは炭素会計の全体像をつかみたいと考えている初心者の方は、ぜひ参考にしてください。

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炭素会計(カーボンアカウンティング)とは?

炭素会計(カーボンアカウンティング)とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス(GHG)の排出量と削減量を具体的な数値にして可視化するためのプロセスを指します。企業の事業活動や政府が行う取り組みにおいて排出されたGHGの量を測定・集計し、削減への取り組みと効果を外部に公開するのが一連の流れです。

GHGのなかでも二酸化炭素(CO2)が最も主要なものであることから、炭素会計において多くの企業や政府がCO2の排出量にフォーカスしています。そのため、「炭素会計」=「CO2排出量算定」と認識されがちですが、CO2排出量算定はあくまでも炭素会計の一部であると覚えておいてください。

炭素会計においては、まず主要な二酸化炭素の排出量を把握するために、CO2排出量算定を行います。次に、CO2排出量算定で得られた数字をもとに、ほかのGHGを計算するCO2換算(CO2e)が行われる流れです。GHGの排出量を計算する具体的な方法については、後ほど解説します。

なぜ炭素会計が重要なのか?

炭素会計が重要視されている理由は、環境問題と企業経営の2つの視点があると考えられます。

昨今では、地球全体の気候変動によって異常気象や食料危機など、多くの問題が発生しています。気候変動による影響をこれ以上広げないため、世界の多くの国では二酸化炭素などのGHG排出量を削減する取り組みが行われています。

日本でも、2050年までにカーボンニュートラル達成を目標としていることを知っている方も多いでしょう。GHG排出量を削減するためには、まずは企業や政府が排出しているGHGの量を把握し、削減に向けた対策を打つことが重要です。

また、炭素会計によって削減したGHGを外部に公表することは、企業経営においても有利に働きます。例えば、自社が持続可能な経営を行っていると投資家から判断された場合、自社が投資家から高く評価され、多くの資金を調達できることにつながります。

さらに、消費者や取引先に対して、環境にやさしい活動を行っている企業であることをアピールできれば、自社のイメージ向上にもつながるでしょう。国では、環境に配慮した活動を行うよう定めた法令である「環境規制」を強化しており、その点においても、脱炭素への取り組みを外部に公開する炭素会計は重要な役割を果たしています。

炭素会計の基本的な仕組みをわかりやすく解説

次に、炭素会計では何をどのように計測するのかについて詳しく解説します。

炭素会計で何を計測するのか?

炭素会計では、二酸化炭素を含む以下の7種類の温室効果ガス(GHG)を計測します。

・二酸化炭素

・メタン

・一酸化二窒素

・ハイドロフルオロカーボン類

・パープルオロカーボン

・六フッ化硫黄

・フッ化窒素

先述の通り、まずGHGのなかでも主要な二酸化炭素(CO2)の排出量を算出する必要があります。それ以外のGHGは「温暖化係数」と呼ばれる数値をかけてCO2換算をし、「CO2e」として統一されます。温暖化係数(GWP)とは、CO2の係数を1とした場合に、その他の物質がそれぞれ何倍の温室効果を持つのかを表す数値です。

例えばメタンの温暖化係数は約25なので、メタンの排出量が1トンだとすると、1トン×25でCO2eは25トンと計算されます。

GHGが排出される場所や経路はどう考えるのか?

GHGを計算するといっても、企業活動によって排出されるGHGの出どころは1か所ではありません。企業が直接排出するものもあれば、間接的に排出しているGHGもあります。例えば、工場で製品を製造する際に燃料を燃焼する場合は直接排出となり、オフィスで使用している家電製品が排出するGHGは、間接排出となります。

また、GHGが排出される場所には、サプライチェーン全体で発生するものも含まれます。サプライチェーンとは、原料の調達から製品の消費までの一連のプロセスを意味する言葉です。商品の輸送や従業員の通勤にかかる排出や、消費者が製品を使用する際の排出など、あらゆる排出が含まれます。

上記のようにGHGが排出される場所や経路はいくつもあることから、炭素会計においては「GHGプロトコル」と呼ばれる国際基準に基づき、発生源を3つに分類しています。3つの分類について、次の項で詳しく解説します。

排出源はどのように分類されるのか?

前項で述べたとおり、炭素会計では企業や国などの組織がどのくらいのGHGを排出したかを正確に把握するため、GHGプロトコルと呼ばれる国際基準に基づき、発生源を「スコープ1・2・3」の3つに分類しています。以下に、3つのスコープについてそれぞれ解説します。

スコープ1

スコープ1は、企業が管理する建物や土地から排出されているものを指し、直接排出と呼ばれます。例えば、自社工場で燃料を燃やす際に排出される二酸化炭素や、自社所有の車両を運転した際に排出される二酸化炭素などが該当します。

スコープ2

スコープ2は、他社から供給を受けた電気や熱などの使用に伴って排出されるGHGのことで、間接排出と呼ばれます。例えば、自社でエアコンを使うために購入した電力の発電時に発生した二酸化炭素はスコープ2に該当します。

スコープ3

スコープ3は、サプライチェーン全体で排出されたGHG排出量を指します。サプライチェーンは自社の企業活動に関わるすべての工程を指すため、対象は広範囲に渡ります。例えば、原材料の仕入れや石油の採掘、倉庫での保管、店舗での販売などです。

スコープ3の排出量はスコープ1の5.5倍ともいわれています。そのため、自社に関連するサプライチェーン全体に排出削減を行うよう働きかけることで、自社はもちろん地球規模で排出を抑えることにつながります。

炭素会計の具体的な手順

最後に、炭素会計を行う具体的な手順を解説します。炭素会計を担当する予定のある方は、ぜひ参考にしてください。

①GHG排出量を算出する

まずはGHGの排出量を算定します。二酸化炭素の排出量を算定する式は、「活動量×CO2排出原単位(排出係数)」です。CO2排出原単位はエネルギーごとに環境省が数値を定めており、例えばガソリンの原単位は​​2.32、軽油なら2.58です。

ガソリンを100キロリットル使用した場合、二酸化炭素の排出量は「100×2.32=232トン」と計算します。

また、二酸化炭素以外のGHG排出量を計算する場合は、「活動量×排出原単位(排出係数)×温暖化係数(GWP)」の式で求められます。温暖化係数とは、二酸化炭素を1とした場合にその何倍の温室効果があるかを示す値で、それぞれのGHGごとに定められています。

ただし、上記は基本的な計算方法であり、スコープ2とスコープ3においては算出が少々ややこしくなるため注意が必要です。スコープ2は「ロケーション基準」と「マーケット基準」と呼ばれる2つの方法で算定し、スコープ3では取引先からGHG排出量のわかる資料を入手するか、環境省が提示している標準的な係数を使って推定する方法などがとられます。

②GHG削減目標を設定する

排出量を算定できたら、削減目標を設定します。例えば、絶対量削減目標として「2030年までに総排出量を50%削減する」など具体的な数値を入れた目標を設定しましょう。

また、強度削減目標として、売上や生産量あたりの削減目標を設定する方法もあります。例えば、「生産1単位あたりのCO2削減量を40%減らす」などです。排出量ゼロを目標とする場合は、何年までに達成するか決めておきましょう。

炭素会計を行う際は、GHG削減達成に向けた短期・中期・長期的な計画を策定し、進捗を把握することが大切です。GHG削減に必要な技術を導入したり、投資を行ったりと、削減を実現するために必要なアクションもひとつずつ洗い出して計画を立てていきましょう。

③GHG削減を実行する

目標を定めたら、GHG削減のための行動に取り組みます。GHG排出量を削減する際のポイントは、省エネの徹底と再エネの導入です。例えば、使用する設備を省エネ性の高いものや高効率タイプに変更することなどが効果的です。

また、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーを使用することで、化石燃料を燃焼する際の排出を抑制できます。その他、ガソリン車ではなくEVを導入することや、環境負荷の少ない原材料を調達することなども、GHGの削減に効果的な取り組みのひとつです。

環境負荷の少ない原材料や製品には、リサイクル製品や有害物質が含まれていないものなども含まれます。環境にやさしい製品を仕入れることは、自社のスコープ3を削減できるだけでなく、仕入れ先のスコープ2の削減にも貢献します。

④削減の進捗状況を外部に情報開示する

最後の仕上げとして、企業としての透明性や信頼性を確保する目的で、外部への情報開示を行います。上場企業であれば、国際的なイニシアチブであるCDP 、もしくはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づいて行うのが一般的です。

CDPはイギリス・ロンドンの非営利団体であり、「気候変動」「水の安全」「森林」の3つのジャンルにおいて企業の取り組みを評価する組織です。一方、TCFDは、気候変動によって企業の財務状況に与えるリスクなどを、企業からステークホルダーに向けて開示することを提言している国際組織です。

非上場企業が炭素会計の進捗を報告する場合は、サステナビリティレポートや自社のHPなどで情報を開示することで、融資を受ける際に役立つほか、消費者から選ばれることにもつながるでしょう。

脱炭素に向けてできることからはじめよう

脱炭素への取り組みの第一歩は、自社が排出しているGHGの量を把握することです。これから脱炭素を意識した経営を行いたいと考えている経営者や企業担当者は、炭素会計の知識をぜひ習得しておきましょう。

また、GHGの排出量を削減するためには、省エネの徹底と再エネの導入が効果的です。アイ・グリッド・ソリューションズでは、できるだけ環境に負荷をかけない屋根上の太陽光発電を提案しています。初期費用をかけずに導入できるPPAモデルにも対応しているので、興味のある方はぜひ一度ご相談ください。

 

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