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TCFDとは?わかりやすく簡単に解説!開示するものはなに?

昨今の気候変動による企業の経営リスク上昇にともない、気候変動の影響を想定した経営戦略を練ることが企業の最重要課題とされています。そこで2015年に設立されたのが、「TCFD」というタスクフォースです。各企業は、気候変動によるリスクやチャンスなどの影響を考慮し、どのような対処をするか事前にシミュレーションを提示することが求められています。

本記事では、TCFDの概要や設立された背景、企業が開示すべき4つの情報について詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。

TCFDをわかりやすく簡単に解説!

TCFDとは、Task force on Climate-related Financial Disclosuresの略であり、日本では「気候関連財務情報開示タスクフォース」と呼ばれています。簡単にいうと、各企業の気候変動への取り組みを具体的に開示することを推奨する、国際的な組織のことです。

TCFDは、金融システムの安定化を目指す国際的組織の「金融安定理事会(FSB)」によって、2015年に設立されました。2015年に、パリ協定で温室効果ガス削減への取り組みを行うことが決まり、それをきっかけに世界中で環境問題に対する意識が広まったのです。

その後1年半の議論を経て、2017年にTCFDは「TCFD提言(最終報告書)」を公表しました。TCFD提言の目的は以下の2つです。

・一貫性、比較可能性、信頼性、明確性をもつ、効率的な気候関連の財務情報開示を企業へ促す
・投資家等に適切な投資判断を促す

このように、TCFDは環境問題だけでなく投資家への判断材料としての目的も含まれています。財務諸表だけでは見えない、気候変動による企業の潜在的リスクを見える化することで、投資家に信頼してもらいやすいというメリットがあるのです。

実際に、社会や環境を意識した投資はリスクが小さいという研究も発表されており、そのような企業に積極的に投資を行う投資家も増えています。これをESG投資と呼びますが、詳細については後述します。

TCFD

TCFDはなぜできた?背景は?

TCFDが設立された理由として、世界的に地球温暖化問題が深刻化していることが挙げられます。また、世界全体の環境問題への意識の高まりにより、企業の価値が財務状況以外の部分で判断されるようになったことも理由の一つです。それぞれ具体的に解説します。

気候変動など地球温暖化問題が深刻化

地球温暖化が世界的に問題視されるようになって久しいですが、2015年のパリ協定では、地球温暖化への長期的かつ具体的な取り組みが以下のように掲げられました。

・世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃よりさらに低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
・そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

地球温暖化の緩和を実現するには、個人だけでなく企業の協力も不可欠です。そこから、企業の気候変動関連情報の開示を推奨する組織である、TCFDが誕生しました。

企業の価値を評価する基準が変化

昨今では、会社の利益はもちろん、社会的な存在価値や環境問題への取り組みを重視する企業が増えてきました。そのような中で、会社の財務状況だけでなく、非財務状況も重視した「ESG投資」を行う投資家が増えています。ESG投資とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の3つの頭文字をとった言葉のことです。

社会的意義や持続性の高い企業が評価されるようになったことから、財務諸表だけでは見えない企業の情報をTCFD提言で開示する重要性が高まっています。TCFDは、企業側にとってもメリットのある枠組みといえるでしょう。特に中小企業では自社の取り組みをアピールする機会にもなるため、リスク対策とビジネスチャンスを同時に掴むことができるという見方もできます。

関連記事:ESG投資とは?【みるエネルギー辞典】

TCFDのシナリオ分析とは?

TCFDを語るうえで欠かせないのが、シナリオ分析です。シナリオ分析とは、気候変動やそれに伴う経営悪化などのリスクに備えるため、さまざまなパターンのシナリオを用意し、それぞれに基づいた対処法を考えることです。

具体的な対策を考えておくことで、いざというときにスムーズに対応することが可能になります。長期的で先の読めないものを相手にシナリオで作成するのは、企業にとって大きな負担になるかもしれません。しかし、気候変動の影響を受けやすい業種では特に、シナリオ分析の重要性は大きいといえるでしょう。

環境省は、シナリオ分析を以下のような手順で行うよう推奨しています。

・経営陣の理解を得た後、シナリオ分析にあたっての分業体制、分析対象、時間軸を設定する。(事前準備)
・企業が直面しうる気候変動によるリスクと機会を洗い出し、財務上どのような影響を与えるか考え、それらの重要度を判断する。(リスク重要度の評価)
・平均気温の上昇温度別に、それぞれのシナリオを想定する。(シナリオ群の定義)
・想定したシナリオごとに、事業や財務面にどのような影響を与えるかを評価する。(事業インパクト評価)
・これまでの分析結果を踏まえ、企業としてどのような対策ができるか検討する。(対応策の定義)
・分析したシナリオ、事業インパクト、対応策を文書化し、情報を開示する。(文書化と情報開示)

参照:環境省

企業がTCFDで開示する情報はどんなもの?

TCFD

TCFDでは具体的に、4つの項目について気候関連情報を開示するよう定めています。重要な順番に紹介しているので参考にしてみてください。

ガバナンス

ガバナンスとは、企業自身が気候変動への取り組みを自社で管理するという意味です。企業内で気候変動に取り組む委員会や役員などを、経営陣が管理しているかどうかが問われます。具体的には以下のような内容です。

・気候変動に取り組む委員会や役員が社内に設置されていること
・気候変動に関する課題やシナリオ分析の結果など、活動報告が経営陣や取締役会に共有されていること
・意思決定の際に気候変動のリスクなどが考慮されていること

要するに、経営陣が気候変動問題にどの程度関与しているか、また会社全体が気候関連の課題をどれだけ考えているかを開示する内容です。

戦略

短期・中期・長期それぞれどのような気候変動に見舞われるリスクや機会があるか、また、気候変動によって自社のビジネスや税務状況、戦略にどのような影響を及ぼすかを開示します。

その際、リスクや機会による具体的な財務状況への影響を特定しておくことや、それに対する強靭な戦略が立てられているかが重視されるのもポイントです。上記で解説したシナリオ分析は、この項目に含まれます。

リスク管理

リスク管理とは、気候関連のリスクや機会を整理し、評価・管理を行うことを意味します。開示するのは、気候関連のリスクや機会を識別し評価するプロセスや、管理するプロセスです。また、組織全体のリスク管理への統合状況も問われます。

指標と目標

指標と目標は、気候関連のリスク・機会の評価に用いる指標を明確にするものです。加えて、目標に対するこれまでの実績を開示します。

評価に用いる指標としては、例えば温室効果ガス排出量の場合は「GHGプロトコル」というものがあります。使用する指標に決まりはありませんが、具体的に何を基準にして目標を達成しようとしているのかを開示することが大切です。また、自社がこれまで行ってきた取り組みを具体的に開示することも求められます。

日本企業のTCFDに対する取り組みの状況は?

日本は2018年にTCFDに賛同し、2022年1月27日時点において687の企業がTCFDの賛同を表明しています。特筆すべきは、金融機関よりも非金融機関の方が参入数が多いということ。また、会社の規模も中小企業から大企業まで幅広いことが特徴です。

日本の企業や投資家は、世界的に見ても環境問題への意識が高い国といえるでしょう。今後もさらに気候関連情報の開示を行う企業が増えていくと予想されます。以下に実例として2社の取り組みを紹介します。

・キユーピー株式会社
2021年11月に、TCFD提言への賛同を表明。原材料の確保を自然環境に依存しているため、収穫量の減少や品質低下などをリスクと捉えた企業戦略を行っています。また、自家消費型発電設備を設置するなど、再生可能エネルギーの活用にも力を入れています。

・株式会社商船三井
2018年11月に、TCFD提言への賛同を表明。外航海運業である商船三井では、気候変動による船舶燃料油の価格変動、船舶の運行、自然災害などをリスクと捉え、対応策を設定しています。また、3度シナリオ、2度以下シナリオ、1.5度以下シナリオの3つのシナリオを作成し、細かく対策を用意しているのも特徴です。

参照:TCFDコンソーシアム

今後の企業経営においてTCFDはどのくらい重要になる?

地球温暖化や台風・豪雨などの自然災害は、これまで経験したことのない事態に見舞われることが多くなりました。

企業が気候変動によるネガティブな影響を受けたとき、事前に予測しているかいないかでその後の明暗がはっきり分かれるのではないでしょうか。シナリオ分析の重要性は、今後も増していくことが予想されます。

また、会社の財務状況だけでは経営リスクを判断しにくくなっていくなか、今後は非財務状況をどれだけ開示できるかが企業としての信頼や価値を高める指標となっていくでしょう。

イギリス、フランス、中国などでは気候関連情報の開示を義務付ける動きが進んでいます。日本国内においては、現時点(2022年1月)では各社の価値観を尊重する傾向が強いものの、一部では義務化すべきとの議論も進んでいます。今後は気候変動がより進むと考えられるため、少なくともTCFDの重要度が高まっていくことは間違いなさそうです。

まとめ

TCFDの概要と、開示する内容について紹介しました。日本ではまだ義務化はされていないものの、今後も気候変動や地球温暖化によるあらゆるリスクが想定されます。またリスクのみでなく、場合によっては非財務状況の開示がチャンスとなることもあるでしょう。

あらかじめシナリオ分析を行いあらゆる対策を考えておくことは、企業にとっても有益なことといえます。投資家の判断材料にもなるため、ぜひ重要性を理解して自社の持続可能な経営に役立ててください。

 

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