バイデン政権でパリ協定復帰、日本はガソリン車禁止に!? 脱炭素社会実現のカギとは?

バイデン新政権が誕生し、前トランプ大統領時代のアメリカファーストから国際協調へと路線を変えることを宣言したアメリカ。このことで全世界的にますます「脱炭素化」が進む流れが生まれつつある。日本では政府が「ガソリン車の販売廃止」を検討と報道されるなど、2050年のCO2排出量実質ゼロへの具体的な方策について模索が続く。「脱炭素社会」の実現に向けてカギとなるのはいったい何だろうか?

バイデン新政権誕生でアメリカがパリ協定復帰

 2021年1月20日、トランプ支持者らの引き起こした驚くべきいざこざをくぐり抜けて、ついにバイデン新政権が発足した。ジョー・バイデンは就任当日に、トランプ政権時代の様々な政策を覆す大統領令など17もの行政命令にサインをしている。初日からそんなにも仕事をしたアメリカ大統領は、彼が歴史上初めてらしい。それら大統領令の中には、日本に暮らすわたし達の生活にも無関係ではないものも多い。その一つが「パリ協定への復帰」だ。

 さて、パリ協定とは何か?2017年、当時在任中だったトランプ元大統領が早々とアメリカの脱退を宣言して、その存在意義が半ば揺らぎつつもあったこともあり、読者の中には「どんな内容?」と記憶があいまいな方もいるかもしれない。

 パリ協定は、京都議定書の後継として2015年に定められた、気候変動に関する国際的な枠組みだ。159もの国・地域が参加しており、締結国だけで世界の温室効果ガス排出量の約86%をカバーする規模を誇っている(2017年8月時点)。加盟国共通の目標として、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をする。そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」ことを掲げている。

 このパリ協定は日本社会にも大きな影響を与えている。現に菅義偉首相が2020年の就任後、初の所信表明演説で明らかにした「我が国は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年にカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という宣言の土台となっているのもこのパリ協定なのだ。

時代のキーワード、「脱炭素」ってなに?

 さて、では世界的に目指すべきとされている「脱炭素社会」とはいったいなんだろうか?

 これまで、20世紀型の社会では、工業生産にしろ、運輸にしろ、発電にしろ、化石燃料が欠かせなかった。しかし、石油や石炭などを燃焼させてエネルギーを取り出せば、その過程でかならず温室効果ガスが排出される。先進国のみならず新興国の急成長や、世界的な人口増加もあいまって、人類によるCO2の排出量はこれまで右肩上がりに増えつづけてきた(ただし、2020年は新型コロナウイルスの影響により、前年比で8ポイントほど減少するだろうと見られている)。

 このままでは地球温暖化は加速する一方だ。ご存知のように、気候変動が進むことで、極地の氷が溶けて海水面が上昇する、異常気象の発生が増える、地域ごとの気候が変わってしまう、その結果として生態系が崩されるなど、さまざまな影響がすでに出はじめている。 それらをくいとめるために、化石燃料の使用を減らし、自然エネルギーに代替させて、温室効果ガスを出さない社会にしていこうという理念が「脱炭素社会」なのだ。

出典)IEA Global Energy Review.

2030年代半ばに、国内でのガソリン車販売がなくなる!?

 脱炭素社会への布石といえば、2020年12月3日に報道で明らかとなった「2030年代半ばに新車販売からガソリン車をなくす」という方針もまたインパクトの大きなものだった。2030年代半ばといえば、これから15年後、すぐ先の未来のことだ。その頃にははたして、日本はガソリン車の売られない国になっているのだろうか−−?あのニュースは、自動車に乗る人にも、そうでない人にも、驚きをもって迎えられたはずだ。

 この報道を受けて、東京都の小池百合子知事もまた、2020年12月8日、国より5年間前倒しして、2030年までに都内で販売される新車すべてをハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などの電動車に切り替える方針を都議会で発表した。これはあくまでも都知事の発言に過ぎない。しかし東京のスタンダードが地方自治体へ波及するケースは多いため、もし実現したならば、東京都での変革が日本全国での変化への呼び水となることは間違いない。

CO2排出比率で見ると運輸よりも発電が大きい

 当然、自動車産業は強い拒絶反応を示し、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は、報道のあった2週間後の12月17日には、脱ガソリン車への急激な移行によって「自動車業界のビジネスモデルが崩壊してしまう」と懸念をあらわにした。豊田氏は、電気自動車(EV)が製造や発電段階でCO2を大量に排出することにふれて「(それを)理解した上で、政治家の方はガソリン車なしといっているのか」と話している。EV車の製造過程では、ガソリン車に比べて約2倍のCO2が排出されるといわれている。

 そもそも、日本のCO2排出量(2018年度)を部門別にわけて見てみると、自動車を走らせることにあたる「運輸」は17.8%で第3位。自動車の製造にあたる「産業」が25.0%を占めていて第2位なのである。ガソリン車はたしかに目立つ存在なのだが、CO2排出量全体から見たインパクトはそこまで大きいとはいえない。

 では、国内のCO2の排出源のうち、もっとも大きなものはなにかというと「エネルギー 転換部門」で、こちらは40.1%を占めている。これは主に、電気事業者、ガス事業者、熱供給事業者から出されるCO2のことを指す。つまり、発電や冷暖房などに使われるエネルギーによって大量のCO2が出されているのだ。脱炭素社会を実現するには、発電部門でいかにクリーンなエネルギーにシフトしていくかが大きなカギとなるといえるだろう。

出典)温室効果ガスインベントリオフィス

大手企業が導入を始めた電力のCO2フリー化

 そこで、効果的なCO2削減の取り組みのひとつとして、電力のCO2フリー化が注目されている。日本では商社各社において電力のCO2フリー化が活発で、伊藤忠は2020年1月に本社ビルに再生エネルギーによる電力を導入、三井物産も7月に本社ビルや国内事業所の電力の実質CO2フリー化を発表した。丸紅も2021年度から、国内の事業所で使用する電力、実質的に再生可能エネルギー100%のCO2フリー電力にすると発表している。丸紅は傘下に水力発電所や太陽光発電所を持ち、その電力を活用するとしている。

 また、自らエネルギーや資源を取り扱う商社だけでなく、メーカーにおいてもカーボンニュートラルを目指す流れは止まらない。大塚製薬やダイワハウスなど、国内の工場で使用する電力をCO2フリーのものに切り替える事例が次々と出てきているのだ。

 大塚製薬は2020年9月には北海道・釧路工場に自家消費型メガソーラー(大規模太陽光発電所)を設置し、敷地内で電力をつくる仕組みも整えた。パナソニックは2019年には日本だけでなくベルギーやブラジルの現地工場でもCO2ゼロ工場を実現しており、2050年までにグローバルで使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替え、CO2排出ゼロのモノづくりを目指すと宣言している。

 「環境にやさしい」というどこかあいまいな表現ではなく、「CO2ゼロ」かどうかが消費者のモノ選びの基準のひとつになる時代も、すぐそこまで来ているのかもしれない。

CO2フリー電力は個人でも購入可能に

 CO2フリー電力というのは、太陽光発電、風力、水力、地熱、バイオマスなど、発電時に二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギー由来の電力のことである。販売時には、CO2フリーである環境価値分が、価格にいくらか加算されている。

 一定規模以上のエネルギーを使用する事業者には、「地球温暖化対策の推進に関する法律」によって定められた温室効果ガス排出量の報告義務があるが、CO2フリー電力の購入量についてはCO2排出係数をゼロとして算定できるというメリットがある。

 また個人向けのCO2フリー電力プランを取りそろえた電力会社も増えてきており、一般家庭でも申し込みひとつで自宅の電力をCO2フリーに切り替えることができる時代になってきた。環境価値の分だけ、価格はわずかに上乗せにはなるが、電気の使い方を同時に見直せば、それほどコストアップは感じずに導入できるだろう。CO2フリー電力が広く支持されるようになればなるほど、再生可能エネルギーによる発電需要が増す。つまり個人であっても、使う電気をCO2フリーに切り替えることでグリーンエネルギーの拡大をサポートすることができるのだ。あなたがいま契約中の電力会社にも、そのようなプランがすでにあるかもしれない。

 低炭素社会の実現を、という思いを持つ方であればぜひ一度検討してみてほしい。10年後には、あなたのその選択が世の中のスタンダードになっているかもしれない。

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