脱炭素社会への移行がもたらす経済への影響

菅首相のカーボンニュートラル宣言以降、脱炭素化への動きが早まっています。2050年の脱炭素化に向けて、環境と経済は両立する方向に進んでいくのでしょうか。

今回は、経済学の観点から環境問題を分析し、解決方法を提案していく研究と教育をされている京都大学の諸富徹先生より、脱炭素社会への移行が産業と経済にどのように影響するのか、お話いただきました。

―菅首相所信表明演説後の動き―

菅義偉首相は2020年10月26日の所信表明演説で、2050年の日本の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げると表明しました。

自動車販売においては、2030年代半ばに国内の新車販売をすべてハイブリット車(HV)や電気自動車(EV)に切り替え、ガソリン車の販売を事実上禁止する目標を打ち出し、自動車の世界では大変動が起きています。

脱炭素化を達成するためには、石油文明からの脱却が必要となります。少なくともエネルギー、産業、交通の3部門で脱炭素化が技術的・経済的に可能であることが必要です。エネルギーにおける脱炭素化については、国際的にも「再生可能エネルギーを極力増やしていくことだ」という理解になってきています。

できる限り化石燃料を電気に置き換え、生産現場でCO2を出さない「電化」に向けて動き出しています。

―2050年における日本の産業の姿―

脱炭素化は、省エネや再生可能エネルギービジネスを発展させていくでしょう。このような産業は間違いなく増えていく姿が想像できます。

さらに、対面サービス(接触型)とは違い、デジタル技術を使って遠隔で人と人が接触せずに、デジタル技術を媒介したサービス提供が重要なビジネスになっていくでしょう。

世界では、産業が「ものづくり」から「モノ以外のサービス」へ移行してきています。それは日本も同じです。サービス産業は電気を使いますが、電源を脱炭素化していくことによって、電気を使ってもCO2を出さないという姿になっていきます。これは、CO2を減らしながらビジネスを発展させていく「産業の構造転換」です。2050年、脱炭素化が実現していれば現在の産業の姿とは大きく変わっているでしょう。

―脱炭素化、企業に求められているもの―

脱炭素化をめぐって金融でも様々な動きが起きています。例えば、銀行がお金を貸す場合や投資家から資金を集める場合、環境の視点が入ってきます。これがSDGs金融です。特に「Sustainability(サスティナビリティ):持続可能性」が強く言われています。化石燃料を大量に排出する生産工程、輸送、その他消費プロセスを含んでいる場合に、企業に資金を貸さない、引き上げる、投資をしないという動きがあります。また、再生可能エネルギー100%(RE100)達成への圧力もあり、米アップル社などはサプライチェーン企業へRE100達成要求をしています。

では、脱炭素化に向けて企業には何が求められているのでしょうか。

1つ目に、自社のエネルギー使用量を把握し、透明化する必要があります。2つ目は省エネにかかるコストの検証です。安い手段から順番に着手し、省エネの可能性を追求していくといいでしょう。3つ目は電力の再エネ比率を増やすことです。ここに大きな課題があります。というのも、日本の再エネ比率は2割弱であるため、みんなで取り合っているような状況なのです。海外から輸入することもできない状況にあるので、これは国の大きな課題となっています。もし、どうしても化石燃料を使用しなければならない場合は、代替可能ならCO2排出量の少ないものへ転換する必要があります。

―脱炭素化時代で生き残るには―

私達の日常生活の中でも環境の変化を感じることが多くなりました。例えば、桜の開花時期は年々早くなり、夏には集中豪雨や台風に襲われます。このような現象が想像以上に早く起きており、世界的に危機感が増しています。脱炭素化は不可避的な潮流であることを認識し、短期的にはコストがかかってしまっても、今すぐに着手しないと致命的になるでしょう。 産業界の中で、脱炭素の位置取りをした企業が勝者になっていきます。「政府がやっているから」「他の企業がやっているから」といった後追いではなく、「脱炭素をわが社のチャンスに」という発想の転換が、脱炭素化時代を生き残るには必要です。

京都大学大学院経済学研究科

地球環境学堂教授

諸富 徹(もろとみ とおる)氏

同志社大学経済学部卒業。

京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。1998年横浜国立大学経済学部助教授、2002年京都大学大学院経済学研究科助教授、2006年同公共政策大学院助教授、2008年同大学院経済学研究科准教授を経て、2010年3月から現職。2017年4月より、京都大学大学院地球環境学堂教授を併任。『資本主義の新しい形』岩波書店(2020年)、『グローバル・タックス -国境を超える課税権力』岩波新書

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