【編集部インタビュー】株式会社エムダブルエス日高 デイサービスの送迎車を相乗り活用し、交通弱者を支援する【福祉Mover】byリブ・コンサルティング
福祉Moverとは、介護事業をおこなう株式会社エムダブルエス日高が提供している“交通弱者向け送迎サービス”です。
デイサービス用の送迎バスを利活用し、日常の買い物や通院などに利用可能なオンデマンド相乗サービスであり、2020年11月からスタートした群馬県高崎・前橋市エリアでの実証実験では多くのユーザーからの支持を集め、翌年2月迄の間に2,400回を超えるデマンドが発生しています。
「デイサービスの送迎網を地域の第3の交通網に」というコンセプトの元、
現在は社会実装フェーズに移行しています。
今回は、MaaSHack編集部インタビューとして、地域の交通インフラにイノベーションを起こそうとしている代表の北嶋様へ、福祉Moverの過去~現在~未来について、お話を伺いました。
キーワードは、“規制/法制の裏側にビジネスチャンスは在る”。
最後までご覧いただければ幸いです。
▼目次 |
Q1:まず、福祉Moverの概要について教えてください。 |
Q2:“福祉Mover”を始めたきっかけについて教えてください。 |
Q3:“福祉車両を利活用する”という観点以外で、福祉Moverの成功のポイントとは? |
Q4:最後に、福祉Moverの未来の展開について教えてください |
<参考> |
Q1:まず、福祉Moverの概要について教えてください。
“福祉Mover”とはデイサービスの送迎車を利用した乗合送迎サービスです。
通院、お子様の家、お買い物、美容院など利用目的は自由であり、日常生活の足として利用したい時に気軽にご活用いただけます。
福祉Moverの利用はいたってシンプルです。スマホに専用のアプリをダウンロードし、事前に行き先を登録。(病院や役所、近所のショッピング施設などを登録する例が多い)
福祉Moverを利用する際は、アプリを開いて事前に登録した行き先を選択するだけ。
近くにいて同じ方向に向かっている送迎車をAIが瞬時に選び出し、車と人をマッチングします。車の場所と到着時間がアプリの地図上に表示されるので、それでよければ『決定』をタップ。利用者は待つだけです。
ただし、ご利用いただける対象としては、要支援/要介護認定を受けている交通弱者のみに限定しており、一般の地域住民をターゲットとしている既存のバス事業者/タクシー事業者との棲み分けをしている事が特徴です。
Q2:“福祉Mover”を始めたきっかけについて教えてください。
このサービスを考えたきっかけは、とあるデイサービス利用者の“ちょっと寄り道”へのニーズです。送迎バスの運行ルートに点在するスーパーや役所などに寄り道したいといったリクエストですが、残念ながらこうした“ちょっと寄り道”への対応は、今の介護保険サービスの枠組み上、できない事になっています。
また、介護保険サービスの枠組み以外でも、例えば利用者が送迎車のドライバーに料金を支払ったら運輸業扱いともなります。白タク行為は当然NGなので車両は緑ナンバーを取得しなければならないし、そもそもドライバーには第二種免許が必要です。また、運輸業となると既存のタクシーなどとの競合問題も発生し、業界同士のケンカにすらなりかねません。
このように、「ルール上、無理です!」と言ってしまうのは簡単ですが、この小さな声に耳を傾け、どうすれば実現できるかを考え続けた結果が、今の福祉Moverのスキームです。
仕組みとしては、福祉Moverは旅行業として登録しています。“じゃらん”のような旅行サイトのようにお客さんと宿や交通機関をマッチングする業態であり、送迎に係る利用料金はサービスの運営側にお支払いいただき、そこから各事業所にフィードバックするというスキームを想定しています。
Q3:“福祉車両を利活用する”という観点以外で、福祉Moverの成功のポイントとは?
大きくは3つのポイントがあると思います。
1、明確なターゲット設定
タクシーやバス事業者などの既存の交通事業者とのバッティング回避のため、ユーザーターゲットを要支援/要介護認定者に限定しています。
このサービスを始めてから福祉Moverの仕組みを導入したいと、ショッピングセンターや医療法人から引き合いはあるものの、基本的にはお断りしています。理由は、我田引水の交通サービスではなく、地域と共存可能な公共インフラにしていきたいというビジョンを大事にしているからです。
2、本業とのシナジー
これは事業のマネタイズにも関わる問題ですが、基本的に福祉Moverは所謂“儲かるサービス”ではありません。既存の送迎車両を使用するので大きな初期投資は不要でしたが、それでもターゲットユーザーからも分かる通り、運営コストを大きく上回る売上はありません。
ではどのように採算ラインを超えているか?というと、この福祉Moverがある事で、本業であるデイサービスへの集客/会員が増えるという事が最大のポイントです。
このように、移動サービス+αでビジネスを考え、グロスでの収益ポイントを創る事が持続可能なビジネスにおいては重要だと考えています。
3、デジタルデバイト対策
3つ目は、会員の利用数増加を実現すべく、会員登録をしたユーザーの自宅に訪問し、予約で使用するスマホの操作方法を教えています。もともと、認知予防の一貫としてデイサービス事業の中でもおこなっていた事ですが、今は福祉Moverのデジタルデバイト対策としても実施をしています。実際に、ユーザーの多くは高齢者にも関わらず、予約の半分はスマホからの予約となっており、確実に成果に繋がっていると実感しています。
Q4:最後に、福祉Moverの未来の展開について教えてください
現在のコロナ禍における新たな利活用として、「要介護高齢者ワクチン接種Mover」というサービスを検討しています。高齢者の中には、ワクチン接種を受けるために病院に行く事ができない人々も多く存在します。その際、福祉MoverのAIが、在宅でのワクチン接種が必用な複数の自宅を繋ぐ最短ルートをはじき出すことで、医師や看護師の負担をかける事なく、効率的な自宅での医療活動が実現できます。
このように、福祉Moverのプラットフォームを活用する事によって、単なる高齢者の移動サービスだけではなく、医療への活用や地域活性化に繋げる事は十分に可能だと思います。
《終わりに》
今回のインタビューを実施し、ベンチマークすべきポイントは「ビジネスの種は、法制/規制の裏側にある」という事だと考えます。
福祉Moverの立ち上げ時の大きな論点として、「どの免許でこのビジネスを行うのか?」というものがありました。一見すると白タク行為に見なされる部分を、他業界の「旅行業モデル」を流用する事で、事業成立要件を満たしています。
このように、様々な法制/規制が参入障壁になっているケースは交通事業に多くあります。クラシックかつ、公共性の高い業界だからこそ様々な法制/規制があり新たなプレイヤーの参入を阻んでいます。その一方で、守れている業界だからこそ、その参入障壁を乗り越え、ブレイクスルー出来た所にチャンスが眠っているのではないでしょうか?
何の障壁も無く、そこに市場があれば既に誰かが手を付けています。今回の福祉Moverのように、法制/規制の裏側にあるチャンスはちょっとした工夫で手に入れる事が出来るのかもしれません。
いかがでしたでしょうか?
これから、ますます高齢者が増えていく日本社会において、日常の移動の足をどう確保するのか?は重要な問題になってきています。実際に、現在の免許返納のタイミングは全国平均で約74歳。その一方で自動車の死亡事故の発生件数は65歳を境として急激に増加します。この約10年の壁になっているのは「免許を返納した時に代替となる移動手段がない」という現実です。
誰もが安心して車を手放す事が出来る社会を実現すべく、福祉Moverはますます広がっていくものと思います。
<参考>
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コンテンツ提供:リブ・コンサルティング
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