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カーボンプライシングとは?②〜今後カーボンニュートラルに関連する企業は増える?!〜【専門家インタビュー】

二酸化炭素の排出を抑えるための政策として行われている、カーボンプライシング。前回の記事に続いて、今回は今後カーボンプライシングが日本にもたらす影響や、カーボンニュートラルにまつわるビジネスの動きについて、専門家にお話を伺いました。

インタビューに応じて下さったのは、アイ・グリッド・ソリューションズ社外取締役、早稲田大学・政治経済学術院・教授などの肩書きを持つ有村俊秀です。カーボンプライシング初心者から脱炭素に詳しい方まで楽しめる内容となっているので、環境問題に興味のある方はぜひ参考にしてください。

有村 俊秀

アイ・グリッド・ソリューションズ社外取締役
早稲田大学・政治経済学術院・教授
環境経済経営研究所・所長
同・高等研究所・所長

●専門
気候変動、省エネルギー、大気汚染等の環境・エネルギーの問題を経済学的なアプローチで研究。
特にカーボンプライシングを中心とした市場メカニズム(環境税や排出量取引)を用いた環境政策が専門。

http://www.f.waseda.jp/arimura/career/

 

カーボンプライシングが今後日本にもたらす影響とは?

ー前回の炭素税や排出量取引のお話をお伺いし、知らぬ間にいろんなところで(カーボンプライジングによって)お金が動いているんだなと感じたのですが、一般の方がこれを知っておく意味というか…自分に影響してくることはあるのでしょうか?例えば、単純に商品の値段が高くなるなど。

はい、経済学的にいえば、この仕組みが上手く働くと同じカテゴリーの製品でもCO2を出す製品は値段が高くなるし、CO2を出さない商品は値段があがりません。消費者は知らず知らずのうちに安い物を買おうとしてCO2の少ない製品を買おうとする。そういうのが理想的な世界なんです。なので、消費者は知らなくても値段が安い製品を買ってくださいと、そう言えるんですね。理想の世界ではありますが。

ーそれはすごいことですよね。

ただいくつかの企業の話を聞いていると、実際には価格を上乗せするのが難しいといわれることもあります。例えば、鉄鋼メーカーが石炭を使っているからといって炭素税の分を部品価格に上乗せしようとすると、別のメーカーさんが嫌がるから上乗せできない、みたいなこともある。そのために消費者価格に上手く転嫁されないというのが一つの課題ではあるんですよね。

ー今のお話で気になったのですが、炭素税を増やしますよ、といわれて「嫌です」と拒否できるということですか?

いえ、そうすると誰かが負担するので、最初の人が負担して消費者まで伝わらないというリスクがあるんですよね。

ーなるほど、会社が全部払ってしまって、消費者のほうで値段を上げない、何も変えないでおこうという?

例えば、鉄鋼製品を使った車の値段に反映されればいいんですけど、車の値段に反映されないで鉄鋼メーカーの負担だけ増えちゃうとか。

ー難しいですね。

アイディアとしては「あなたの商品はCO2をどれくらい出していますよ」みたいなのをレシートに出そうとか、そういうのもあるんですよね。

ーなるほど。でも、それはぜひ確認してみたいです。興味があります(笑)

でもそれって調べるのが大変で、いろいろなプロセスを経て製品が作られるので、どの段階でどのくらいCO2が出ているのかっていうのを把握するのは難しくて。なので、まだみんなが納得する形で映し出されてきていないんですよね。

カーボンニュートラルに関連する企業は今後増える?

ーアイグリッドさんの記事を書く中で、SDGs関連の企業に就職したい方がすごく多いというデータを拝見しました。今後カーボンニュートラルに関連する企業は増えていくのでしょうか?

それは感じますね。早稲田の学生にもそういう流れはありますし、もっとすごいのは「カーボンニュートラルに貢献できるようなビジネスを始めたいんだけどどうすればいいですか?」みたいな。どうやれば起業できるのか聞いてくる学生とか、こういうアイディアがあるんだけど、なんて言ってくる学生も何人かいますね。

ー既にある企業さんにとっても学生さんの意見は参考になると思うのですが、例えばどういった案が学生さんから出ているのでしょうか?

僕のところに来たのは、カーボンクレジットをビジネスにしたいと。カーボンニュートラルの中でもカーボンクレジットといって、自主的にCO2を減らして、その減らした分を排出権とみなしてクレジットとして売買するっていう動きがありますよね。

実際、僕も経産省のカーボンクレジットレポートを座長としてとりまとめるお手伝いをしているんですけど、クレジットの使い方を整理したうえで実際にカーボンクレジットの市場を動かそうっていう動きがあります。今度9月から東京証券取引所で実際の試行的な市場っていうのが始まるんですけど。そういうところで売れるようなクレジットを作りたいということですね。

あるいは、人々が「自分も貢献したい」と思う気持ちを使って削減行動に関与してもらい、カーボンクレジットを作って売買するみたいな。そういうビジネスを考えている学生さんたちも何人かいますね。

ーこれまではカーボンニュートラルに関して既存の企業さんがどう取り組んでいるかというお話が中心でしたが、今後はそれに関連する企業が増えていくのかなとすごく思いました。

そうですね。あと、僕の世代だといかにいい企業に就職するかに重点を置いていたのが、そうじゃなくて、自分でビジネスを起こせないかって考えている人が増えている感じが心強く思いますね。

ーカーボンプライシングと脱炭素に関する起業って簡単なんですか?それともすごくハードルが高いものなのでしょうか。

うーん、どうなんでしょうね(笑)今後カーボンプライシングが経済に入っていく世界で、どうビジネスをやっていくか?というのがまずひとつ重要になってきますよね。

それから、クレジットの取引も盛んになっていくんじゃないかっていうのも期待していて。サプライチェーンのCO2をゼロにしようといろんな企業さんが取り組んでいますが、サプライチェーンのCO2をゼロにするときに、電気だったら再生可能エネルギーを買えばいいけど、全部が再生可能エネルギーでまかなえるわけじゃないとなれば、その分はクレジットを買ってきてオフセット(相殺)しようという動きになる。

そこで、カーボンクレジットを「作る」っていうビジネスも出てくると思いますし、カーボンクレジットの融通を助けるビジネスっていうのも出てくると思います。商社さんもそういうビジネスを狙ってるんだと思いますけどね。

 

コラム:牛肉がなくなる?!スーパーマーケットと炭素税の関係性

私たちが利用している身近なスーパーと脱炭素の関係はどのくらい深いものなのでしょうか。ここでは、有村先生に行ったインタビュー内容をもとに、カーボンプライシングがスーパーマーケットにもたらす影響や、世界の環境に対する意識について紹介します。

カーボンプライシングが小売やスーパーマーケットにもたらす影響とは?

今後カーボンプライシングが普及していくにつれ、私たちが利用している身近なスーパーマーケットや小売店の商品価格も変わっていくことが予想されます。現時点で詳しい内容は公表されていませんが、有村先生によると、野菜や加工食品等がどれだけCO2を排出しているかが計算できれば、ある程度は価格の予測もできるのだとか。

中でも牛肉は、加工する過程で温室効果ガスの一つであるメタンの排出量が多くなることから、価格の上昇が大きいのではないかという見方があるようです。それに付随して、牛乳の価格も大きく上昇する可能性が考えられます。

脱炭素における世界の食の意識について

有村先生のお話によると、2018年のスウェーデンにおける環境世界大会でのメインディナーはキャベツのみだったそう。主催者側は「CO2の少ない素晴らしいディナーだ!みんな嬉しいだろう」と、あくまで環境を中心に考えたメニューであると話されていたようです。

また、スウェーデンで購入したコーヒーはレインフォレスト・アライアンスのマークがついているだけでなく、森林保全、オーガニック、CO2オフセットなど、コーヒー一杯からあらゆる面で環境に配慮している姿勢が垣間見れるというエピソードも聞くことができました。その他、ヨーロッパでは移動の際に飛行機ではなく船や電車を使う人が多いなど、日本と比べて環境への意識が高いと先生はおっしゃいます。

今後は、スウェーデンだけでなくさまざまな国で二酸化炭素を排出しない製品を作る動きが見られるでしょう。「カーボンオフセットビーフ」なるものが、今後出てくる可能性にも期待したいですね。

イオンは脱炭素に向けた取り組みが進んでいる?

日本においても、環境問題に積極的に取り組む企業が増えつつあります。例えば、大手小売企業であるイオンは海洋資源の保全に力を入れた水産物の販売を行っています。魚などの商品に「MSC」や「ASC」といったラベルが貼られているのを見たことがある方も多いでしょう。

今後もイオンだけでなく、さまざまな小売やスーパーマーケットでこのような商品が出回ることが期待できます。企業はもちろんですが、私たちもできることからカーボンニュートラルに向けた取り組みを実践していきましょう。

第二回はここまでです。次回は「カーボンプライシングの世界と日本の動向」をテーマに解説していただきます。お楽しみに!

 

▷カーボンプライシングとは?連載

カーボンプライシングとは?①〜種類や国内外にもたらす影響について〜

カーボンプライシングとは?③〜カーボンプライジングの世界と日本の動向〜

カーボンプライシングとは?④〜カーボンプライジングにおいて今後企業が取り組むべきこと〜

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