カーボンプライシングとは?①〜種類や国内外にもたらす影響について〜【専門家インタビュー】
脱炭素への意識が企業や一般家庭で高まる中、さまざまな取り組みが国内外で行われています。ここでは、カーボンプライシングについて4つの記事に分け、専門家にインタビューを行いました。
インタビューに応じていただいたのは、アイ・グリッド・ソリューションズ社外取締役のほか、早稲田大学政治経済学術院の教授などの肩書きを持つ有村俊秀先生。初心者から脱炭素に詳しい人まで楽しめる興味深い内容となっているので、環境問題に興味がある方はぜひ参考にしてみてください。
有村 俊秀
アイ・グリッド・ソリューションズ社外取締役
早稲田大学・政治経済学術院・教授
環境経済経営研究所・所長
同・高等研究所・所長
●専門
気候変動、省エネルギー、大気汚染等の環境・エネルギーの問題を経済学的なアプローチで研究。
特にカーボンプライシングを中心とした市場メカニズム(環境税や排出量取引)を用いた環境政策が専門。
カーボンプライシングとは?
ーそれでは最初に、カーボンプライシングの概要を初心者向けに分かりやすく説明していただけますでしょうか。
はい。カーボンプライシングとは、簡単にいうと二酸化炭素の排出に値段を付けることです。二酸化炭素を排出する活動に対して費用を上げることで、二酸化炭素の排出量を減らしていく、そういうことを狙っている政策です。二酸化炭素の排出量が多い企業ほど費用負担も大きくなります。
カーボンプライシングの種類
次に、カーボンプライシングの種類と実践例についてお伺いしてみました。カーボンプライシングは明示的なものと暗示的なもの、大きく二つに分けることができます。
明示的カーボンプライシングについて
ー調べたところ「カーボンプライシングにはいくつか種類がある」とわかったのですが、具体的に何種類くらいでどういう形があるのか教えていただけますか?
大きくいうとカーボンプライシングには2種類あるんですけれども、一つは炭素税といって、税の方式で二酸化炭素に値段を付ける方式です。例えば、化石燃料や石炭や天然ガスは燃やすとCO2が出るので、その使用量に応じた排出量に基づいて課税が行われます。石炭を使って発電をしている場合は当然電気の製造費用が上がるので、電力の費用も上がっていくということです。
もう一つが排出量取引という方式で、政府が二酸化炭素の排出量の総量を決めるんですね。この総量に見合う分だけの許可証を作って、それを二酸化炭素を排出する企業等に保有してもらいます。各ビル(企業)にあなたのところはこのくらい、あなたのところはこのくらい、と振り分け、それに向かって排出量を減らしてもらう。そして、許可された分で足りなければ他から買ってきたり、逆に余れば他の人に売ったりすることもできます。
明示的カーボンプライシングの実践例
ー基本的に炭素税や排出量取引はどちらも行っている方が多いのでしょうか?
実際はどちらかを採用してスッキリと制度設計すれば良いものですが、両方実施している国もあります。例えばヨーロッパなんかだと、フランスでしたら工場では排出量取引制度をやっていて、それ以外の家庭なんかは炭素税をやる、という形ですね。日本はいろいろ複雑で、おそらく皆さんも地球温暖化対策といって炭素税を払っているんですよ。
ー日本では、具体的に誰がどのように支払っているのでしょうか。
日本の場合、化石燃料はほとんど外国から輸入しているので、輸入時に業者さんが税金を払っているんですね。それが費用として電気代やガソリン代に上乗せされていて、金額でいうと1トンあたり289円、ガソリンに換算すると0.76円です。リッター0.76円なので、誰も気づいていないのが現状なんですね。
ーレシート等に「炭素税」と明示されているわけではなく、ガソリン代などに知らないうちに上乗せされていると。
そうですね。消費者がお金を払うときにはもう分からないんですよね。消費者だけでなく、企業もそうです。東京都のオフィスビルの場合、炭素税が電気代等に上乗せされているのに加えて排出量取引もやっていたりして、二重になっているところもあります。ややこしいですよね。
ーなるほど。炭素税というのは一般の層がまったく理解していない、というのが今のお話で分かったのですが、排出量取引制度についても理解されているというか、「あ、うちのビルって取られているんだ」と思っている方はあまり多くないのでしょうか?
すごく少ないですね。特に東京都の排出量取引制度の場合、最初は、昔のCO2の排出量に基づいて無料で排出枠を配ったので、その分(排出量取引制度)のお金は払っていないんですよ。目標に見合った分だけ減らしていっている分には、排出枠にはお金がかかっていないので。
ー排出量取引について理解されているのはビルの管理者くらいということでしょうか?
そうです。ビルの管理者の人たちはすごく一生懸命に「どうやって減らすか?」という対策をしているところなんですよね。ビルもある程度大きなビルじゃないと対象にならないので、小さなビルは対象にならなくて。その点大学なんかはキャンパスの中にいっぱいビルがあるので、全体としてはすごく対象になっています。アイグリッドの近くにある上智大学も対象になってますし、早稲田や東大なんかも対象になっています。一定の大きさがあると対象になっていますね。
暗示的カーボンプライシングについて
ーなるほど、ありがとうございます。先ほど明示的カーボンプライシングについて説明していただきましたが、もう一つの種類についても紹介していただけますでしょうか。
もう一方の「暗示的炭素価格」もカーボンプライシングの一つといわれています。政府が二酸化炭素に値段を付けると意図していなくても、結果的に二酸化炭素に値段がついている形になっているもののことですね。
例えば、化石燃料に関するエネルギー税などです。もともと日本ではオイルショックのときにエネルギー安全保障のために「石油を備蓄しよう」という話があって、それ以降そのためのお金を集める目的で石油・石炭税というのがかかっています。ただこの石油・石炭税は、炭素税の下に元々かかっているんです。
なので、事業者からすると両方払っているんですよね。明示的な炭素税と暗示的な炭素税を両方払っている感じになっています。化石燃料の課税というのはエネルギー税という形でヨーロッパなんかでもいろいろな国でかかっています。炭素税と違って二酸化炭素の排出量には比例していないのですが、やはり課税されているということになっていますね。
暗示的カーボンプライシングの実践例
それ以外にも、暗示的炭素価格というのはたくさんあります。例えば「省エネ法」という法律があるのですが、省エネ法は「一定規模の工場やビルなら、政府が定めた省エネ基準を達成していかなければならない」という法律なんですね。その省エネ基準を達成するために、ビルを管理する人や工場を管理する人がいろいろと努力しています。そこにお金がかかっているんですよね。その負担も実質的にはエネルギーを減らしたり、CO2を減らしたりするためにかかっている負担ということで、暗示的炭素価格とみなすこともありますね。
ーありがとうございます。カーボンプライシングについては明示的と暗示的があるということでしたが、種類的には大まかにそのくらいでしょうか?
そうですね。ただ暗示的炭素価格のほうは、紹介した以外にも細かい種類がたくさんあります。例えば、家にあるエアコンの省エネ性能も「このくらいの水準を目指しましょう」という形で経産省が指針を出していて、メーカーはそれに合わせて高性能なエアコンを作っているんですね。メーカーはその分費用が余計にかかるので、それも暗示的炭素価格の一つとみなされます。
第一回目はここまでです。次回は「今後カーボンニュートラルに関連する企業は増える?!」をテーマに、解説していただきます。
お楽しみに!
▷カーボンプライシングとは?連載
・カーボンプライシングとは?②〜今後カーボンニュートラルに関連する企業は増える?!〜
・カーボンプライシングとは?③〜カーボンプライジングの世界と日本の動向〜
・カーボンプライシングとは?④〜カーボンプライジングにおいて今後企業が取り組むべきこと〜
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